スペシャリストのいるチームの「強さ」を痛感させられた試合だった。同点で迎えた9回裏。巨人の先頭打者、中島が左前打で出ると、ベンチは代走に増田大を送った。増田大は難なく盗塁を決め、2死一、三塁になってから代打・亀井。亀井は初球を中前にはじき返して、サヨナラ勝ち。「足のスペシャリスト」と「代打のスペシャリスト」が、膠着(こうちゃく)しかけていた試合を決めた。

それぞれが仕事をしただけと言ってしまえばそれまでだが、そんな言葉で表現するほど簡単ではない。ヤクルトの大下はクイックが速くないし、捕手の西田の肩も強くない。事前のデータがあったとはいえ、相手バッテリーがMAXで警戒している場面。そんな中で、わずか2球目に盗塁を決められる増田大の走力は見事というしかない。

亀井のバッティングも見事のひと言。代打を告げられた後、ヤクルトは大下からマクガフにスイッチ。マクガフは大下より球威があるし、この試合の球審は特に左打者の内角高めのストライクゾーンが広かった。捕手の西田も内角高めに構えていたし、釣り球に引っ掛かってくれたり、ボール球をストライクと判定してくれればラッキーだと判断して要求したのだろう。カウントが悪くなれば亀井を歩かせ、次打者のウィーラーと勝負してもよかった。そんな状況の中、やや真ん中に入ったとはいえ、見逃せば高めのボールになる直球を仕留めた亀井が、ヤクルトバッテリーを上回っていた。

コロナの影響で満足な調整期間がなかったせいか、どのチームもケガ人や疲労で精彩を欠いている。こんな時こそ、スペシャリストの存在が際立ってくる。「最後の勝負手」がある巨人の強さを感じさせられた試合だった。(日刊スポーツ評論家)

9回裏巨人2死一、三塁、サヨナラ打を放った亀井(左)は笑顔で坂本とハイタッチを交わす(撮影・河野匠)
9回裏巨人2死一、三塁、サヨナラ打を放った亀井(左)は笑顔で坂本とハイタッチを交わす(撮影・河野匠)