勝負事の怖さといえばいいのか、一瞬の油断といえばいいのか。勝利を目前にした巨人が9回2死、森の同点ソロで追いつかれ、引き分けに終わった。7回まで4点をリードしていただけに、負けに等しい引き分けだった。

3点をリードした巨人は、9回に抑えのデラロサを送った。しかし先頭打者の岸にヒットを打たれ、代打のメヒアに2ラン。1点差に詰め寄られたが、2アウトまでこぎ着けていた。ここで打席に迎えた森には、カウント3ボール。説明するまでもないだろうが、打者の森からすれば、ホームランを打てる球だけを待つ場面だった。

9回表西武2死、同点の本塁打を放つ森。投手デラロサ(撮影・菅敏)
9回表西武2死、同点の本塁打を放つ森。投手デラロサ(撮影・菅敏)

「もしかしたら…」という予感がした。捕手の大城は外角のボールゾーンに構えたが、極端なボールゾーンではなかった。外国人投手というのはやたらとストライクゾーンに投げたがる習性がある。特にネクストバッターズボックスには、代打で中村がスタンバイ。当然だが、この走者を歩かせたら、中村の1発が逆転本塁打になる。中途半端な真っすぐは危険度が高くなると思った瞬間だった。外角を狙った真っすぐが引っ掛かり気味で甘く入り、右中間スタンドに本塁打された。

結果論ではなく、1発だけはいけない場面だった。極端な話で言えば、森は四球でもいいし、代打の中村も、4番の山川にも四球で歩かせ、満塁にしてもいい場面。百歩譲って完全に外すのではなく「際どいところ振ってくれないかなぁ」という考えがあったにせよ、真っすぐではなくタイミングだけでも狂わせる変化球を選択するべきだった。

ここまで基本的な「間違い」をするのは、バッテリーだけの責任では済まされない。ベンチからも大声で「広くいけ!」や「ホームランはダメだぞ!」とかの声があっていい。球場で観戦していないため、実際にベンチから声が上がっていたかは分からないが、伝わっていないから、あのような攻めになったのだろう。付け加えるなら、大城を捕手でスタメン起用するなら、終盤にリードした時点で交代を考えた方がいい。

「分かっているだろう」というのは、勝負事の“落とし穴”になりやすい。その“落とし穴”にはまり、勝てる試合に勝てなかった。(日刊スポーツ評論家)

9回表西武2死、森(手前)に同点の本塁打を打たれ、ベンチで肩を落とす原監督(中央)(撮影・菅敏)
9回表西武2死、森(手前)に同点の本塁打を打たれ、ベンチで肩を落とす原監督(中央)(撮影・菅敏)