息詰まる投手戦を制したのは阪神だった。勝因は文句なしで高橋の投球だ。前回の登板も良かったが、故障明け3度目の登板はそれを上回る完璧な内容だった。クリーンアップには慎重に入り、それ以外の打者にはどんどんストライクを先行させていた。巨人からすれば故障明けでもあり、相手守護神のスアレスもいまひとつの状態。なんとか球数を投げさせたかったが、粘ることさえできなかった。

これだけの投球をされれば、打てないで負けるのは仕方ない。それでも試合前に感じた違和感があった。高橋の弱点といえば、左打者の内角を攻めるのが苦手で、右打者より左打者の方がいいタイプ(試合前まで右打者2割3分8厘、左打者2割6分1厘)。しかもウィーラーや中田は踏み込んで打つ右打者で、高橋のようなクロスファイアを武器にする左腕は打てないだろうと思っていた。結果的に最終打席でウィーラーが右前安打したが、今季は右投手に3割以上、左投手は2割5分以下だ。

一番納得できないのは中田のスタメン起用だろう。内角球を苦手にしており、制球力もキレもある高橋のような左腕はもっとも打てなさそうなタイプだった。さらに言うと、ベンチスタートとなった一塁手の中島は、右方向に追っ付け打てるタイプ。ここまでの成績も中田をはるかに上回っている。現に8回に代打で出場した中島はライナー気味のセンターフライに倒れたが、それほど悪い内容ではなかった。

シーズン途中に移籍した中田を起用したい気持ちは理解できる。しかし巨人というチームは実力至上主義で、何よりもチームの勝利を優先する。レギュラーをつかむには結果を残さなければいけない。そんなことは誰よりも知っている原監督であり、歴代のどの監督より実力勝負を徹底させ、チームを強化した実績もある。中田には投手出身の私には分からない能力があり、もう少し我慢すれば開花する可能性が高いのかもしれない。それでもシーズン終盤の優勝争いしている時期に必要以上にこだわるのは、今後の戦いに向けて不安材料になりかねない。

復調気配の菅野は8回1死から投手の高橋にヒットを打たれ、手痛い追加点につながった。菅野の力量からすれば油断以外の何物でもない。こうした“ほころび”も、チームの雰囲気が良ければ少なくなるし、致命傷となるミスにつながらないもの。中田は起用してもらっているのだから、もっとがむしゃらなプレーが必要だ。日本ハムにいたときより一生懸命やっているし、本人なりに苦しんでいるだろう。しかし現状での立場でプレーするなら、苦しいチームを奮い立たせるような必死さを見せるしかない。(日刊スポーツ評論家)

巨人対阪神 8回裏巨人2死一塁、中飛に倒れる代打中島(撮影・たえ見朱実)
巨人対阪神 8回裏巨人2死一塁、中飛に倒れる代打中島(撮影・たえ見朱実)