6回に美馬が吉田正の打球を受けて降板し、緊急登板した東妻の杉本への初球は甘いスライダーだった。

この1球がいかに不用意であったか、結果論としてではなく、ここに至る背景を解説したい。まず、この日の杉本は第1打席も、第2打席も変化球に対し積極的にバットを出している。第1打席は初球スライダーをファウルし、最後はスライダーをセンター前に運んだ。第2打席は初球カーブを見送りボール、そして2球目カーブをレフト前に打ち返した。

杉本はロッテ戦では32本塁打のうち実に13本を記録している。23打点もリーグで最も多く稼いでおり、シーズンのロッテ戦打率は4割3分。数字から見ても、最も警戒すべき打者だ。前日の試合で完璧に抑えてきたからこそ、この試合でもそのまま杉本を抑え続け、覚醒させない慎重さが求められる場面だった。

その状況を踏まえた時、加藤は甘めにミットをスッと構え、東妻もそこへ何も考えずにスーッと投げてしまった。きわどいコースに投げる意識も、低めを丁寧に、という意図も感じられない。そこには、この初球に対する集中力と、初球の入り方から組み立てて、杉本をいかに仕留めるかというビジョンは感じられなかった。私に見えたのは、カウントをスライダーで取ろう、というなにげなさしかなかった。

東妻はブルペンでしっかり試合を見ていたのか。加藤には杉本への警戒心をいま一度引き締める丁寧さがあったのか。すべてにおいて、打たれるべくして打たれた2ランだった。

こうして1球の大切さが、打たれたロッテバッテリーに刻まれるのだが、この1球は取り戻せない。短期決戦はその1球を取り戻すことはできない。だからこそ、1球に意識を集め、可能な限り準備しなければならない。

1球に泣くバッテリーを尻目に、伏見は盗塁を刺し、犠打で走者を二塁に送らせない高い守備力で田嶋を援護した。配球では、インコースをアクセントに、長打のあるインコースに固執せず、アウトコースへの出し入れで長打を避け、辛抱強くリードした。

両チームのバッテリーが示した1球への慎重さの違いは、対照的な結果となっただけに、よけいに目立ってしまった。これで杉本は完全に息を吹き返し、逆にロッテ打線は2戦連続の完封負けで打線は一気に降下モードに入った。

これが1球の怖さであることを、両軍が身をもって味わったと思う。(日刊スポーツ評論家)

オリックス対ロッテ 6回裏の登板を終え先制点を許したロッテ東妻はがっくり肩を落とす(撮影・垰建太)
オリックス対ロッテ 6回裏の登板を終え先制点を許したロッテ東妻はがっくり肩を落とす(撮影・垰建太)