ヤクルト対オリックス 7回裏ヤクルト2死一塁、右中間に逆転2点本塁打を放つサンタナ。投手吉田凌(撮影・江口和貴)
ヤクルト対オリックス 7回裏ヤクルト2死一塁、右中間に逆転2点本塁打を放つサンタナ。投手吉田凌(撮影・江口和貴)

「SMBC日本シリーズ2021」第3戦は、ヤクルトが勝利した。逆転に次ぐ逆転劇となった大激戦。両軍バッテリーの戦いを、日刊スポーツ評論家の谷繁元信氏が分析した。

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初戦から一瞬も気が抜ける場面がない。緊張状態が続き、リードする捕手は手詰まりになりがちだ。だがこういう状況こそ、ごまかすよりも、腹をくくった方が正解に近づく可能性が高くなる。

第2戦のゲームセットのシーンで、ヤクルト中村のリードに手詰まりの予兆を感じた。2点リードの9回2死、代打ジョーンズを1-2からカーブで空振り三振に切った。完封に導いたが、試合を通してみれば高橋の状態なら、虚を突くようなカーブを選択しなくても十分に打ち取れたはずだ。

※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速
※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速

だが打者の頭にない球種を求めすぎるのは、逆に投手を不利に追い込むことがある。本来、持ち球の優先順位からすれば下位にあり、得意ではない球種は失投を招く危険性がある。

第3戦では6回に杉本に同点2ランを食らった。直球、カットボールと140キロ台で2-2に整え、最後は直球を選んだ。1、2打席目はフォークが勝負球。カウントの作り方はいかにも最後はフォークという配球で、中村は裏をかいて直球を投げさせた。

決して間違いではない。現に杉本の打ったポイントはやや打者寄りの手元でフォークも意識にあったタイミングだ。要求した外角ギリギリに制球できていれば抑えていた可能性も十分にある。

※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速
※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速

一番危険なのは「裏をかいたのに、打たれた。試合を重ねて表も狙われ始めるし、苦しい。どうしよう?」と迷いが出てくることだ。私が出場した過去の日本シリーズで10年は引き分け再試合があったり、11年は第7戦までもつれた。常に意識していたのは、頭をリフレッシュさせ、手詰まりを起こさないことだった。

この日本シリーズは第2戦まで先発投手の力投が目立ったが、今後は継投の展開になってくると思う。そうなれば救援陣には自信のある球で勝負させる方がいい。オリックスも7回にサンタナに逆転決勝2ランを浴びた。捕手の若月は吉田凌にシーズンで投球の6~7割を占めるスライダーを2-0から要求した。結果的に打たれたが、意表を突いた直球で打たれる方が手痛いし、この選択は割り切っていい。

※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速
※投手から見た図。○=直球、左向き△=スライダー、△=カーブ、右向き△=シュート、◇=その他変化球。下線はファウル、★は空振り、白ヌキは最終球、数字は球速

球種を絞って外角のスライダーを一振りで仕留めたサンタナが見事だった。捕手はレベルの高い攻防に疲弊するだろうが、近年にない内容の濃い日本シリーズとなっている。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対オリックス 6回表オリックス無死二塁、右越えに同点2点本塁打を放つ杉本。投手小川(撮影・江口和貴)
ヤクルト対オリックス 6回表オリックス無死二塁、右越えに同点2点本塁打を放つ杉本。投手小川(撮影・江口和貴)