日本ハム中田翔内野手(28)の優しさを感じた。事件が起こったのは5月24日、大宮での練習中だった。主砲はフリー打撃の順番が来るのをケージ付近で待っていた。バックネットに向かってティー打撃を打つ選手の姿を見守っていた。だから、近藤健介捕手(23)の外野からの返球がそれたのに気づけなかった。ボールはワンバウンドして中田の右あごに直撃した。その瞬間を「誰かに殴られたと思ってイラッとして後ろを見ても誰もいない。それでボールだとわかった」と振り返る。衝撃=殴られたと連想するのが、実におとこ気あふれる。

送球が当たった右あごをアイシングする中田(2017年5月24日撮影)
送球が当たった右あごをアイシングする中田(2017年5月24日撮影)

 外野から慌てて近藤が謝罪にかけつけた。トレーナー陣も患部を確認した。中田はずっと右手であごをさすりながらも、順番がまわってきたフリー打撃を行った。38スイングで4本の柵越えを放った。練習を終えてもまだ痛そうだ。「俺じゃなかったら倒れてるよ」の言葉は頼もしいが、相当な“ヒット”だった。

 しばらくしてロッカールームから包帯ぐるぐる巻きの姿でベンチ裏に現れた。患部を冷やすアイシングを固定するため…にしても、見た目が衝撃的過ぎる。写真をバシャバシャ撮る報道陣に向かって「おもしろがってるんじゃねーよ」と一喝するも「撮るな」とは言わない。そして「ネタができて良かったな」。ネタ探しに苦労する報道陣のために自分の姿をわざと撮らせてくれたのだ。おかげで翌日紙面に写真と記事を掲載することができた。

 近藤に対してのフォローも完璧だった。そのままの姿でベンチに登場。ちょうどグラウンドのベンチ前でまだ練習していた近藤の名前を呼んだ。振り向き、その姿を見て思わず爆笑。心配も吹き飛んだ様子だった。

 ちなみに元気をもらったのはもう1人いたようだ。杉谷拳士内野手(26)のインスタグラムにも中田の写真が投稿された。その日、愛用するストレッチ用の木製の棒が折れてしまう悲劇に襲われ落ち込んでいたようだが、ロッカールームでの先輩の姿に「暗い気持ちでしたがなんだか元気になりました」とつづっている。

日本ハム杉谷(左)が愛用する木の棒を拝借した田中賢が誤って折ってしまい苦笑いで謝る(撮影・木下大輔)
日本ハム杉谷(左)が愛用する木の棒を拝借した田中賢が誤って折ってしまい苦笑いで謝る(撮影・木下大輔)

 次の日、中田に痛みなどはないか聞いた。すると逆に質問された。「ボール何個当たったの? 顔が腫れてるよ」。ニヤリと笑って言われたその言葉にはグサリときたが、不思議と嫌な気分にはならない。前日、懐の大きさを感じたからだと思う。【日本ハム担当=保坂果那】