ファンの力を感じるシーンだった。5月26日の日本ハム-ソフトバンク戦(札幌ドーム)。2点リードの7回1死、投手交代で谷元がブルペンから姿を見せると、大きな拍手が降り注いだ。誇張なしに、この日1番と言ってよかった。

 ほぼ24時間前、谷元は悲劇の真ん中にいた。今季初登板で2年ぶり勝利を目指した中村が5回2失点の好投。3点のリードで、谷元がバトンを受け取った。しかし…。西武秋山に3ランを浴びるなど4失点。まさかの逆転を許し、試合にも敗れた。

 勝ちパターンで起用される救援投手の乱調は、痛恨の逆転負けに直結する。谷元の胸に今でも刻まれているのは、2014年のクライマックス・シリーズ第1S第2戦。この年での引退を表明していた稲葉が、8回に代打で勝ち越し打を放ったものの、その裏、この回からマウンドに上がった自分が、T-岡田に逆転本塁打を浴びた。降板後、ホテルに帰るまでの記憶は、残っていない。「あのまま勝てば、稲葉さんのヒーローインタビューだったのに…」。続く第3戦、日本ハムは延長戦に勝ってファイナルS進出を決めた。谷元は涙を流した。救われたという気持ちはある。でも…。稲葉がヒーローインタビューのマイクの前に立つことは、2度となかった。奪ってしまったという思いは、いまだに残っている。

 救援投手は日々、相当の重圧を背負ってマウンドに上がっている。

 冒頭のシーン。残酷な敗戦で後輩の2年ぶり勝利を消した翌日。「緊張した。不安だった。ヤジられると思った」。だがスタンドの反応は違った。普段は増井や宮西に比べ「拍手が少ない」と自虐的に笑っている自分に、割れんばかりの拍手が届いた。激励と、変わらない信頼を示す拍手だった。「涙が出そうになった。力になった。勇気をもらった」。谷元はこの日のマウンドを、完璧に抑えた。もしも不安な気持ちでマウンドに上がり、連続で救援失敗していたなら、歯車が狂っていたかもしれない。谷元の歯車が狂えば、それはチームにとって大きなマイナスとなる。重圧のかかるマウンドを、実力と経験で乗り越えた谷元の踏ん張りはたたえられるもの。そしてまたファンの存在も、大きな戦力であると再認識させられた。【日本ハム担当=本間翼】