その瞬間、神宮球場がざわついた。4月の試合終盤、ヤクルトの中継ぎブレストン・ギルメット投手(29)がマウンドに上がる。大音量で響く出ばやし。その選曲が意外だった。「パワーホール」。プロレスファンならば誰もが分かり、思わず「チョーシュー! チョーシュー!」と叫んでしまう。革命戦士・長州力の登場曲だったのだ。

 衝撃は続く。5月。ギルメットの登場曲が変わる。パワーホールと違い、スタイリッシュな音。まさかの「キャプチュード」だった。80年代後半からUWFで日本中を興奮の渦に巻き込んだ格闘王・前田日明に変更されていたのだ。まさにプロレス黄金期世代に直撃の曲の数々。陽気な助っ人は大のプロレスマニアなのではないか。直撃すると「格好いいから」との返答。プロレスに特に思い入れはなかった。

 では、なぜ名曲を知っているのか。仕掛け人がいた。小山信一通訳。プロレス好きでギルメットが登場曲に悩んでいる際に、数曲を選んで提案。そこでパワーホールが格好いいとなり、採用された。キャプチュードも同じ経緯での変更だった。何はともあれ、プロレスファンならば爆音でかかる名曲に心は躍る。小山通訳は「やっぱり球場で、プロレスの曲を大音量で聴くとテンションは上がるよね」と話す。

 ちなみにプロレス好きの山中も新日本のエース棚橋の登場曲である「HIGH ENERGY」を使用。戦いに挑む前、心を奮い立たせるにはプロレスの登場曲はぴったりなのだ。【ヤクルト担当=島根純】