子供たちの未来のため、大人が知恵を絞った。

 第1回の神奈川学童野球指導者セミナーが21日、横浜市内で開催。上田誠慶応高前監督(60)が音頭を取り、山崎哲也横浜南共済病院スポーツ整形外科部長(56)元DeNAの三浦大輔投手(44=日刊スポーツ評論家)らが講演、現役の学童指導者を交えた討論会を行った。医師、トレーナー、理学療法士、監督、元プロ選手らが一堂に会する機会は珍しく、意義ある船出となった。

 セミナー発足の根底には、上田氏の野球の地盤沈下に対する危機感があった。神奈川では学童野球チームがここ数年で約2000から約800に激減したという。それでいて、スポンサーが付く大会は増加傾向。投球過多の選手が故障し、野球を断念せざるを得ない例も少なくない。指導者にも医学的知識を付けてもらい、同時に、医療サイドにも現場の意見を聞いてもらう会を立ち上げたのだ。

 試合、特に大会ともなると、子供に勝利至上主義を強いてしまいがちだ。「エンジョイベースボール」を掲げて甲子園に出場した上田氏だが、自分の息子は小学4年で野球をやめてしまった。子供相手に試合中に怒鳴りつける指導が脳裏に浮かんだ。三浦氏は、息子が小学3年から野球を始めたが「うれしくて熱くなり過ぎた。嫌々やっているのが見えるようになって、少し指導をやめた。そうしたら質問してくるようになった」と反省した。安打を打ったりや三振を奪ったりという野球本来の楽しさが、子供から消えていたことに気が付いたのだ。

 テーマが球数になると議論が白熱した。学童指導者は試合の球数制限を提案した。「ルール化すれば、複数投手を用意せざるを得なくなる」。これに対し、山崎氏は「1日50球以内にすべき」との日本臨床スポーツ医学会の意見を紹介しながらも「筋肉は使うと硬くなる。選手によって違う。科学的にデータを出すべき」。理学療法士の坂田淳氏は「80までに抑えて。特に100球以上は故障が増えるとデータに出ている」。現役時代は200球以上の投げ込みで知られた三浦氏は、米国では球数にキャッチボールと遠投を含めると紹介。「ある程度制限しないと。やめていった人がたくさんいる」とした。

 投球障害の症例から予防法、復帰プログラム、取り組み方から経験談まで、内容は濃かった。上田氏は「一緒になってやることが意味がある」。立場の違いはあれど、子供の、野球の将来を案じる姿は重なっていた。