どのスポーツにおいても「流れ」が存在する。私が昨年までやっていたアメリカンフットボールでは「流れ」のことを「モメンタム」という。9年間プレーをしてきた中で、所属チームの監督コーチから試合中に「モメンタムを引き寄せろ」という言葉をよく聞いた。

 今季から若虎を率いる阪神矢野燿大2軍監督(49)も試合の中での「流れ」を念頭においている。試合前のミーティングで常々「流れを大切にしよう」と呼びかけている。「試合開始の1球目から」、「味方が点を取った後の1球目」、「味方がいいプレーをした後の次のプレー」…など。矢野監督や選手のコメントでよく耳にする言葉だ。

 「流れ」をうまく利用した印象に残る試合があった。3月31日の巨人-阪神(東京ドーム)だ。阪神2点リードの6回、巨人の攻撃。無死満塁で場内にコールされたのは「代打阿部」。ドーム内が異常なほどの大歓声に包まれ、阿部は押し出し四球を選んだ。8回には10年ぶりに日本球界に復帰した上原が登板し、3人斬り。盛り上がりはピークに達した。巨人が「流れ」をうまく利用して、逆転勝利を呼び込んだ。

 悪い「流れ」を1つのプレーで一転させたシーンもあった。4月19日の中日-阪神戦(ナゴヤドーム)で、中日先発は怪物松坂。7回2死満塁で代打上本を空振り三振に封じた。球場の歓声はレジェンドの快投で最高潮に。「流れ」は完全に中日へ向いた。しかし、8回一打同点のピンチで、大島がセンター方向に運んだ打球を俊介が背走しながらのダイビングキャッチ。ビッグプレーで大きく傾いた「流れ」を断ち、1点リードのまま阪神が逃げ切った。

 「流れ」を作り出すことは簡単なことではないが、勝負においては重要なポイントであることに違いない。【古財稜明】