偶然の巡り合わせだった。7月上旬、記者が急用のため、取材先のジャイアンツ球場からタクシーに乗った時のこと。運転手から質問を投げかけられた。「ヤングマン選手を最近見かけないんですけど、今は1軍ですか?」。巨人のテイラー・ヤングマン投手(28)が7月1日の中日戦(ナゴヤドーム)で初勝利を挙げたことを伝えると「そうなんですか! いつも乗っていただいていたので、うれしいですね」と大喜びだった。

 来日1年目の右腕は開幕から2軍暮らしが続いた。ファームの練習拠点のジャイアンツ球場までは、都内の自宅から通った。最寄り駅の「京王よみうりランド駅」まで電車移動。そこから球場までは「よみうりV通り」と呼ばれる急傾斜の坂道があるため、タクシーも利用していた。

 話をタクシーの車内に戻す。運転手が話した。「ヤングマンさんは乗る前には『おはようございます。ジャイアンツ球場までお願いします』、降りる時には『ありがとうございます。またよろしくお願いします』と日本語で元気よくあいさつしてくれるんです。何年かここでタクシーを走らせていますが、こんなに礼儀正しい外国人選手は初めてです」。人柄がにじんだ。

 後日、ヤングマンにタクシー運転手の話を聞いてみると「本当? 覚えていてくれてうれしいね! あの駅では3、4人の運転手さんがローテーションで回っているんだ。たまに坂道を歩く時もあるけどタクシーに乗ることが多いから『ジャイアンツ球場までお願いします』という日本語が得意になったよ」と笑顔。「もっと喜んでもらえるようにたくさん勝たないとね」と活躍を誓った。

 88年ガリクソン以来、球団史上2人目となる外国人投手のデビュー3戦3勝をマーク。だが、25日ヤクルト戦で打球を左手に直撃させ骨折。翌26日に登録を抹消された。不運な形でリハビリの拠点となるジャイアンツ球場へ再び通うこととなったが、タクシー運転手との“約束”を果たすために、再び立ち上がる時を待つ。【桑原幹久】