マウンドで西武斉藤大将投手(23)がニヤッとしたのが見えた。

 8日のオリックス戦(京セラドーム大阪)。

 ドラフト1位左腕は8回2死一塁で登板した。ワグナーが白崎に右前適時打を浴び、7-6の1点差に詰められた場面だった。火消しを求められたが、吉田正にストレートで四球を与えた。すると、遊撃の源田が近寄って来て、何やら一言。斉藤大の表情が揺るんだ。

 翌日、斉藤大に聞いた。「『唇、乾いてるぞ』と。緊張をほぐすために声をかけてくれたんだと思います」。実際に乾いていたか、どうかは関係ない。ピンチを広げたルーキーの心をほぐす狙いだった。斉藤大は続く伏見にも四球を与えたが、吉田正へのようなストレートではなかった。フルカウントまで粘られ、最後は内を突いた直球が微妙に外れた。ただ、次の中島を遊ゴロに仕留め、ピンチを脱した。1点差の逃げ切り勝ちにつなげた。

 源田にも尋ねたら「唇がぱさぱさだったんで」と冗談ぽく答えた。「あそこで野球の話をしても、頭に入ってこないですよ」と続けた。あえて、冗談のように声をかけたわけだ。

 マウンドで、どんな言葉をかけるべきか。土肥投手コーチの話が興味深い。「8割は間を取るため。技術的なことは、ほぼ言わない」という。8日の試合では2回、マウンドに向かっている。

 【ケース1:4-4の4回1死一塁】先発の高橋光が宮崎に同点の2点適時打を打たれた直後。「ここから、また試合が始まると思って、切り替えていこう」と伝えた。高橋光は後続を断ち、同点止まりで切り抜けた。

 【ケース2:7-6の8回2死満塁】先に書いた場面だ。斉藤大が伏見にも四球を与え、塁を埋めた直後。ここでは「2アウトだから、ランナーを見ないで、バッター1人だけ勝負していこう」と伝えた。中島を遊ゴロで切り抜けた。

 いずれも、投手が後続を断った。コーチのひと声に効果があったと言える。土肥コーチには気を付けていることがある。

 土肥コーチ 心理学を勉強した。基本のことなんだけど、ネガティブワードは使わないようにしている。たとえば「四球は出すな」や「ホームランに気を付けろ」とは言わない。「四球」「ホームラン」といった言葉が投手の頭に残ってしまい、悪い結果につながることがある。「四球」という言葉を使わず「低めに投げろ」と言うようにしている。

 現役時の苦い経験があるという。ピンチとなり、マウンドに来たコーチから「このバッターは、この球種が苦手だぞ」と言われた。その球種を4、5球、続けた結果、バットは折ったが、外野手の手前にポトリと落とされた。決して、その球種だけで攻めろ、と言われたわけではないが、他の球種が使いづらくなってしまった。「選手を縛るような言葉は使いたくない」と、反面教師になっている。

 土肥コーチは「投手は繊細なもの。かける言葉1つで変わる」とも言った。部下や後輩を指導する際、どんな言葉をかけるべきか。野球以外のことにも、参考となる気がした。【西武担当 古川真弥】