止まった時計の針を再び動かし始めた。左手骨折でリハビリ中の巨人吉川尚輝内野手(23)が13日、川崎市内のジャイアンツ球場でマシン打撃を再開した。1球、1球、緩いカーブに感触を確かめるようにバットを振った。納得がいかないのか、時折、「あー!」と声を響かせる。イメージと違う、ミスショット。それでも表情には笑みが浮かんだ。「前からのボールを打つのは久々。これだけバットが振れたので良かったです」と手応えを口にした。

絶好調の瞬間に、暗転した。8月1日のDeNA戦(横浜スタジアム)。6回無死、一塁へのゴロでヘッドスライディング。内野安打としたが、ベースと左手が接触し、そのまま倒れ込んだ。検査の結果は左手骨折。18試合連続安打から、長期離脱となった。開幕から正二塁手として先発出場を重ね、坂本勇が負傷で離脱すれば遊撃のポジションで躍動した。2年目の才能が開花し始めた直後の悪夢だった。

失意の中、3軍で黙々とリハビリした。再建手術を行った箇所に配慮して、運動は制限される。重く、蒸し暑いギプスをまといながら、じっくりと練習強度を上げていった。練習が終われば、集まってきたファン1人、1人にサインするため、ペンを走らせた。「時間はあるんで」と謙遜するが、今、自分にできること、求められる役割を誠実に果たしてきた。

骨折から約2カ月半が経ち、ようやくの打撃練習再開。捕球の際に左手を使うキャッチボールも、元通り出来るようになった。「実戦に近い動きは出来てきている。あとはトレーナーさんと話して、量を振ったりとかですね」と着実にステップを上がってきている。

マシン打撃を再開した13日はくしくもCSファーストステージの初戦。時計の針は戻せないが、あの舞台にいたらどんな輝きを放っただろうか。レギュラーシーズンは終わったが、フェニックス・リーグ、秋季キャンプと日々は続く。若武者は焦らず、黙々と復活に向けた時を刻んでいる。【巨人担当 島根純】