椎名林檎(2017年12月31日撮影)
椎名林檎(2017年12月31日撮影)

椎名林檎がイチローを歌う「スーパースター」という曲がある。12年に解散したバンド「東京事変」が、06年に発表したアルバム「大人(アダルト)」の4曲目に入っている。

同作品の10曲目に佳作「透明人間」があり、最近よくCMで流れている。加えて存在の大きさからか、イチローを題材とした邦楽は皆無と言ってよく、来日が迫るにつれて気になりだして繰り返し聴いている。

作詞の椎名林檎は「未来は不知顔(しらんかお)さ 自分で創っていく」「答えは無限大さ 自分で造っていく」とイチローを表現した。自身から見たイチローの風景は「もしも逢えたとしても 喜べない」「あなたの意思を思い出す度に 泪を堪えて震えている」「テレビのなかのあなた 私の スーパースター」と並べた。

タイトルから意表を突くメロウな曲調に敬意を乗せた。才能が才能を歌ったにしては、てんびんが振り切れている。それにしても椎名林檎は、国民の多くが国民的英雄に対して抱くであろう普遍の感情を、実に巧みに切り取った。

人間とは弱い存在のゆえ、当たり前のように凜(りん)と立ち続けること、その背景にある努力の継続が、いかに困難であるかを分かっている。比較して至らない劣等感を、根底にこめたと解釈した。

シーズン200安打を並べるピーク時に発表された曲だが、イチローから目を背けたり、嫉妬したりする人間(自分もだが)の深層まで包括して、今も変わらず輝いている。

2人は以前、テレビで対談したことがある。「スーパースターという言葉は嫌いだが、前に『私の』とつくと、全く違ってくる」との趣旨を話したイチローが、非常に喜んでいたことを覚えている。

「私の」スーパースターが東京ドームの打席に立つ。見届けたそれぞれが、それぞれの思いを抱く2日間になる。【宮下敬至】

◆宮下敬至(みやした・たかし)99年入社。04年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)-巨人-楽天-巨人。16年から遊軍、現在はデスク。

アスレチックス対マリナーズ 打撃練習で汗を流すマリナーズのイチロー(撮影・滝沢徹郎)
アスレチックス対マリナーズ 打撃練習で汗を流すマリナーズのイチロー(撮影・滝沢徹郎)