「サイドスローは体を壊す」「サイドスローはダメ」

かつて耳にした悲しい言葉を、自らの勲章で否定したはずだ。阪神青柳晃洋投手(27)は今年、キャリアハイの13勝を挙げ、最多勝と最高勝率の2冠を手にした。強打者を抑え込み白星を重ねてきた姿は、プロを夢見る子どもたちにも輝いて見えたはず。青柳に以前聞いた「個性」の話を思い返した。

サイドとアンダースローの間から繰り出す、球界でも唯一無二のフォーム。「クオータースロー」という呼び名は、帝京大時代の友人が名付けてくれたという。どのステージに行っても、最初はその珍しいフォームをチームメートたちにまねされた。「中学校もそうですし、高校上がった時も。高校1年でいきなりサイドスローで投げてたら、みんなに面白がってものまねされたりとか」。そんな周囲を結果で認めさせてきた。「この投げ方だからプロに入れたというのもある。この投げ方で良かったなって思います」。貫いた個性は大きな武器になった。

プロ入り後は、小学生から「僕もサイドスローで投げたいんですけど、どうやったらコントロール良くなりますか?」「どうやったらそういうふうに投げられますか?」など、手紙が届いたこともある。うれしく思いながら、返事を書いたという。一方で、サイドスローに対する“偏見”も耳にしたことがある。ある時テレビを見ていると、少年野球の監督やコーチが「サイドスローは駄目だ、体を壊す」と言って、子どもたちにやめさせていた。青柳は自らの経験をもって、個性を伸ばすことの大切さを説くことが出来るはずだ。

「体に良くないって言われるんですけど、全然そんなことない。現に僕もずっと小学校からやってきてますけど、大きなケガも特にないです。その子に対してサイドスローが合ってるかもしれないのに、無理やり上から投げさせて、大成せずに終わっちゃう人も多分いっぱいいると思う。やりたい、向いてると思ったら本当にどんどんやってほしいなと思います」

穏やかな話し方の中にも、強い思いがにじんでいたことを覚えている。

今年は侍ジャパンの一員に選ばれ、東京五輪という大舞台にも立った。青柳にあこがれて、そのフォームを「ものまね」する子どもたちが増えているかもしれない。【阪神担当=磯綾乃】