金武での楽天キャンプを見て、「そうか」とうなずいてしまった。宮崎のソフトバンクキャンプを見た時、どこか、物足りなさを感じていたが、その理由を金武で見つけた。

午前中の走者をつけたシートノックで、セカンドの存在感が際立っている。ソフトバンクから戦力外となり新加入した川島だった。その川島が随所で的確な声を出し、その効果によってグラウンドが非常にいい緊張感に包まれていた。

フラフラと上がった二塁後方の飛球に対し、川島はいかにも捕れそうな動きを見せる。これで二塁走者のスタートが遅れた。最初から外野に任せるそぶりをみせれば、走者に判断材料を与えてしまう。少しでも判断を遅らそうという38歳ならでは隠れた技術だ。ちょっとした動きに、相手にスキを与えない緻密さがある。まさに生きた教材だ。

走者がいるため、内野陣は細部に気を使う。川島は「もっと全力で行こう。そうすれば走者がベースに戻るかもしれないだろ」と、声をかける。川島が声を出せば、おのずとグラウンド内がその声の意味に耳を傾け、集中力が増す。

本来、ソフトバンクのキャンプがこうした空気感であったはずだ。それが宮崎で受けた微妙な感覚の差であり、金武での引き締まったムードになっているのだと、納得できた。これまで楽天は田中将、涌井、浅村、岸と強力な選手を獲得してきた。しかし、この川島の補強が近年の楽天としては、もっともチームに力を与える補強となるのではないか。

厳密に言えば、シートノックはノッカーが打つ瞬間の体勢、顔の向きでコースが予想がつく。それを前提に内野手は動き、走者も次の塁を狙う。公式戦に比べればかなり状況判断がしやすい環境だ。したがって、ちょっとでも気を抜けば、試合に備えた練習というよりも、予測の中での緊張感がやや欠けた練習になりかねない。

川島の存在によって、この練習に集中している内野陣の動きは、実戦に準ずる正確性、スピードのレベルに感じた。1人の選手が動いただけなのに、ソフトバンクの緊迫感に若干の物足りなさとなり、一方で楽天の充実ぶりを後押ししている。重要なピースを手に入れたと、のちのち実感することになるのではないか。川島の動き、言動を見ながら感じた。(日刊スポーツ評論家)

楽天川島はベースランニングでスライディングしポーズを決める(2022年2月7日撮影)
楽天川島はベースランニングでスライディングしポーズを決める(2022年2月7日撮影)
ウオーミングアップ前に楽天安田の顔に上腕を押し当てる川島(2022年2月7日撮影)
ウオーミングアップ前に楽天安田の顔に上腕を押し当てる川島(2022年2月7日撮影)