一連の球界再編問題を振り返る上で、堀江貴文氏(46)は絶対に外せない人物だ。近鉄とオリックスの合併に待ったをかけ、近鉄の買収に名乗りを上げた。「ライブドア」は参入を果たせなかったが、閉塞(へいそく)感が充満していた当時の球界に風穴をあけた。3回にわたって当時を語る。

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「31歳IT社長名乗り 近鉄を買収」「合併に待った 来季12球団か」。2004年(平16)6月30日の日刊スポーツ1面に、これ以上ないインパクトを放つ見出しが立った。見出しの脇には「堀江貴文・ライブドア社長兼CEO」と説明が添えられた顔写真。近鉄とオリックスの合併が発表されて2週間のタイミングで、彗星(すいせい)のごとく現れた。

翌7月1日の1面も堀江が飾った。黒のTシャツにホワイトジーンズを合わせて東京証券取引所へ乗り込み、会見を開いた。「真剣に買いたいと思っている。500億円ほどの現金を保有している。5年、10年で手放さないといけないような、弱い会社ではない。売りたい会社があって、強い権力を握っている方が文句を言わなければ、球団を買って、経営を続けていける体力のある会社は、ある。なぜ断る理由があるのか。新規参入の阻害ではないか」と語った。

合併→1リーグ制という縮小の流れに待ったをかけるのに十分で、選手会を含めた世論から支持を受けた。堀江からすれば理詰めで起こしたアクションであり、騒ぐことでも何でもなかった。「何回も言ってるんですけど、1万回くらい言ってます」と前置きして、経緯を振り返った。

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僕の地元である福岡でインターネット関連の仕事をしていて、ある講演会に呼ばれて。講演をしていた福岡ダイエーホークスの人から「いやぁ、ウチのチーム買ってくれませんかね」って言われて。買えるわけないじゃん、そんな高いモノと思ったんですけど。

親戚とかに話を聞いたら、ホークスは大人気で、九州中から人が集まっていて、毎日満員御礼だという。福岡のローカル球団が、こんなことになってるの? って…。ハッと気付いたのが、みんなメールで「今日、ホークスの試合を見に行こうよ」とやっている。僕が仕事にしていたモバイルインターネットだったんです。

あの時、ホークスの社長をやってた高塚さん(猛=17年に死去)っていう人が、リクルートから送られた経営者で。ホークスのロゴを地元商店街で「ライセンスフリー」にしたり、旅行代理店と提携して九州中から人を呼んだり、地元テレビ局に全部中継させたり。地域密着で、いろんなことをやっていた。そんな中でモバイルインターネットの時代になり始めていたので、人が集まりだしていたんですよね。

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球場と球団とホテル。「3点セット」と言われていたじゃないですか。バブルと批判されて。あれは、メジャーリーグの球場と同じで、世界最先端のビジネスモデルだった。日本ハムが北広島市に新しいスタジアムを造るじゃないですか。あれなんてまさに、ホテルもあって複合商業施設になっていて。「1日過ごしてください」みたいなモノを、球団が持つ。20年前にやっていたわけです。

それまでは日本テレビが巨人の放送をやって、その放送権でしか食えない時代が続いていた。読売-巨人-日テレのビジネスモデルが、崩壊しつつあったわけです、あの時代は。体現しつつあったのがホークスで、そのホークスに、僕がたまたま出会った。新しいビジネスモデルが、福岡でできていたんです。

これは、地方で全然可能性があるなと。で、近鉄ですよ。

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近鉄とオリックスの合併があったから、買収を考えたのではない。頭の中でビジネスモデルが練り上がったタイミングで、近鉄とオリックスの合併が明るみに出たのだ。

思考を即、実行に移さなければ生き残れない。IT業界の原理原則に従い、堀江は積極的に動く。(敬称略=つづく)【球界再編問題取材班】

◆堀江貴文(ほりえ・たかふみ)1972年(昭47)10月29日生まれ、福岡県八女市出身。東大在学中の96年、ホームページ制作請負会社オン・ザ・エッヂを創業し、04年にライブドアと社名変更。活動はロケット開発事業、文筆業、医療関係、グルメ関連アプリ、ミュージカル俳優など多岐に及ぶ。バスケットボールBリーグ、ライジングゼファー福岡の社外取締役、サッカーJリーグのアドバイザーも務めている。

<近鉄買収の動き>

◆04年6月13日 近鉄とオリックスの合併合意が発表される

◆6月30日 「ライブドア」が近鉄の買収に名乗り。堀江貴文社長(当時31)が東京証券取引所で会見し、セ・パ2リーグ制の維持を主張

◆7月4日 堀江氏が大阪ドームで近鉄-オリックス戦を生観戦。スタンドからは「ホリエコール」が起こり、マイクによる演説を行うとパニック状態に

◆8月19日 ライブドアが新球団結成を発表

◆同27日 近鉄とオリックスが統合の契約を締結

◆9月14日 「楽天」がプロ野球の球団経営に参入する意向があることが明らかに

◆11月2日 オーナー会議が開かれ、楽天の新規参入を全会一致で承認

04年6月30日付 日刊スポーツ1面
04年6月30日付 日刊スポーツ1面
04年7月1日付 日刊スポーツ1面
04年7月1日付 日刊スポーツ1面