セ・リーグが予告先発を採用していなかった2011年(平23)までは、取材する側と隠そうとする側の攻防が絶えなかった。

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人間にはクセがある。先発ローテーション取材の基本は練習の観察だが、調整の過程でさまざまな質問事項が出てくる。普段から練習を見ていれば、ちょっと変わった練習をすればすぐに分かる。

そうしたネタはメイン原稿のエピソードになるし「こいつ俺のことよく見てるな」と認識され、取材しやすくなることもある。番記者には毎日の積み重ねがあり、質問の仕方によってどういう答え方をするか、どういうリアクションをするかが、難なく予想できてくる。

予想の精度を上げるには、登板日が分かっているときに、わざと分かっていないふりをして聞くのも有効だった。自分の取材に対して正直に答えるか、答えないかを識別するのはとても重要。正直に話してくれる人とそうでない人が識別できれば、迷うこともなくなる。プラスして、ウソをつく、正解だけどはっきりと答えられないときにどういう答え方をするか、どういうリアクションになるかも、観察できる。

先発する本人だけではない。監督や投手コーチはもちろん、先発ローテに入っている投手は自分がいつ投げるのかを知っているため、だいたいの先発の順番を把握している。中継ぎ投手も誰が先発するかによって、準備の仕方が変わってくる。トレーナーや外国人投手であれば、通訳もいつ投げるか知っている。立場上はっきりと教えてくれなくても、普段のクセを認識していれば、間違いは少なくなる。

選手の実力や性格も分かる。実績十分の実力者は、先発を惑わすために調整を変えない。「俺が投げるか分かっても、抑えればいいんだろ」といった感じ。エースと呼ばれる投手は予想が楽だった。ただ、面食らうのは雨で中止になったとき。何時に中止になったかによってまちまちだが、エース級の投手はスライドで先発する傾向が強い。こうなると、相手もこちらがまったく分かっていないのを知っているだけに、口が重くなった。

正攻法の取材だけではない。「昼メシ」や「夜メシ」の誘いもヒントになる。登板前日の「夜メシ」や当日の「昼メシ」はNGのケースが多い。わざとそういう日に誘って、確かめたりした。

予告先発がなかった時代の取材活動を大まかに紹介してみた。感心してくれる人より「記者ってろくな人間じゃないな」と感じた人の方が多いのではないか。その通り。当時の野球担当記者は、ろくな者ではない。(この項おわり)【小島信行】