高校野球100年を迎えた15年夏の甲子園。仙台育英(宮城)は決勝で東海大相模(神奈川)に6-10で敗れ、あと1歩で東北勢初の優勝を逃した。その秋にロッテへドラフト1位入団する左の主砲、3番平沢大河内野手(3年)は大会6試合で6安打6打点3本塁打をマーク。打った6安打はすべて左投手からで、左打者が左から3発放ったのは史上初だった。原則的に左対左は不利といわれる中、“左打ちの左キラー”が準優勝に導いた。

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 準々決勝の試合後に記者から質問されるまで、平沢は左投手からしか打っていないことに気付かなかった。明豊(大分)との1回戦では、大会初打席で先発左腕からバックスクリーン右に先制2ラン。2、3回戦は無安打に終わるも、準々決勝では秋田商の成田と対戦。のちにロッテでチームメートとなる左腕へ、右翼ポール際に先制ソロを浴びせた。4戦で放った2本塁打を含む3安打はすべて左投手だった。

 平沢 言われてから気付いた。それまでは全く気にしてなかった。高校入学当初はむしろ左投手が嫌いだったし、特に左が得意というわけでもない。ただ、自分の調子が悪いときは、左投手の方が楽に入れるというのはあるけど…。来たボールを打って、それがたまたま左なだけだと思う。

 自分でも理由が分からなかったが、“左キラー”ぶりは続いた。準決勝では怪物1年生の清宮幸太郎内野手(現日本ハム)擁する早実(西東京)と激突。4回には左腕から、大会3本目となるダメ押し3ランを放ち、決勝進出を決めた。東海大相模のエースは左の小笠原慎之介(現中日)。平沢が活躍する舞台は整った。

 平沢 小笠原は左だし、回ってきたら絶対打とうと思っていた。あそこでもう1点取れていれば、という試合。あの場面で甲子園のムードは変わった。

 勝敗を分けた攻防があった。3-6で迎えた6回。2死満塁から仙台育英の1番に走者一掃の三塁打が飛び出し同点。球場内の観客はタオルを回して流れが一気に傾く中、後続の2番が倒れて次の平沢まで回らなかった。初回、3回と小笠原から2安打していたが、東北勢を初優勝に導くアーチはかけられなかった。

 平沢 悔しい思いもしたけど、準優勝は胸を張れる成績だと思う。あの活躍があったからこそ今がある。準優勝がなかったら、今プロの世界にいるかも分からない。でも、やっぱり優勝はしたかった。第100回大会は、母校の仙台育英に優勝してもらいたい。

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 プロ入り後も実は平沢は“左キラー”の可能性を持ち合わせていた。プロ2年目の昨年は50試合出場で119打数21安打。内訳は右投手から16安打を放つも打率1割5分1厘で、一方の左投手からは5安打で打率3割8分5厘だった。だがトータルでの打率は2割を切ってしまった。今季は5月20日時点で、対左投手は3打数無安打だが、今季から就任した井口資仁監督(43)は平沢の特性を見抜いていた。

 「どっちかというと今、平沢は右投手の速球に差されている。左投手は角度的に入ってくる球がないので、打ちやすいのかな。左は速球に差されることがないから。(右打ちだと)僕の経験でも左投手っていうのは、普通の右投手よりも差されるので」

 今季が定位置獲得の正念場で背水の3年目だ。内野に限らず、外野にも挑戦している。

 平沢 去年は右も左もそんなに打ててない。どっちでもいい。来るボールは一緒だから。今年を逃したらだいぶ厳しくなる。食らい付いてレギュラー争いに割って入って、アピールしたい。

 井口監督も期待する。

 「大河は今一番成長している。いろんな育成方法ってあると思うけど、下(2軍)でずっと試合に出場させるとか。でもいろんなポジションをやって、本人も1軍にいたいって言ってる。そういうチャンスはいろんなところに転がっている」【高橋洋平】