<全国高校野球選手権:金足農2-1日大三>◇20日◇準決勝

 いつも通り、三塁側ブルペンから小走りでマウンドに向かった。4回2死二、三塁のピンチ。妹2人、弟2人の5人きょうだいの“あんちゃん”日大三・河村唯人投手(3年)は「ここで抑えれば、みんなが逆転してくれると思った」と集中。外角高めへの138キロ直球で空振り三振に切って、ピンチを脱した。1点差で敗れはしたが、5試合連続救援で7年ぶり4強の立役者になった。

 河村に、大阪桐蔭・根尾、藤原、浦和学院・蛭間…。今大会で活躍する選手たちの共通点は、小学6年時に日本野球機構(NPB)と12球団が主催する「12球団ジュニアトーナメント」に出場していることだ。西武ジュニア出身の河村は、途中登板した楽天ジュニア戦で2失点。6-2で勝利したものの「自分の力では通用しないということが分かりました。あの頃は何も考えずに野球をしていた」と成長につなげた。大阪桐蔭・藤原は「オリックスジュニアに入って、上には上がおると思いました」と刺激にした。

 05年から始まった同トーナメントは、毎年12月下旬に札幌ドームやヤフオクドームなどで、プロと同様のユニホームを着て優勝を競う。日本ハム近藤(ロッテジュニア)らが1期生で、3期生に楽天松井(横浜ジュニア)、西武森(オリックスジュニア)、その後は楽天オコエ(巨人ジュニア)、阪神高山(ロッテジュニア)らを輩出。ジュニアトーナメント→甲子園→プロは、野球界の新たなスタンダードになってきた。

 軟式野球の全国トップ選手が集まれば、当然レベルは高くなる。巨人ジュニアのコーチ5年目の田中大二郎氏(30)は「通常小学6年生投手のスピードは100~105キロぐらいですが、大会には115~120キロ、速ければ125キロぐらいの選手が集まる」と言う。大阪桐蔭に準々決勝で敗れた浦和学院・蛭間は「(中日ジュニアの)根尾君は、当時から130キロぐらい出ていた」と驚く。

 幼少時からプロの指導者と触れ合うことで技術や心構えを学び、同世代のライバルから刺激を受ける。最終メンバーは16人で、今夏巨人ジュニアの1次テストには各連盟から推薦された約110人が集まり、メットライフドームでセレクションを行う西武ジュニアは過去最高の635人が受験した。仙台育英3年には楽天ジュニア出身が4人。甲子園最多の1試合22奪三振を記録した楽天松井は「子供ながらプロの球場で試合できる喜びを覚えてます。自分の野球人生の中で1つの大きな経験」と懐かしむ。

 すべての経験を力にして甲子園にたどり着いた選手たち。河村は「何万人という観衆の中で、なかなかプレーはできない。気持ちいいマウンドでした」と涙は見せなかった。金足農・吉田に投げ負け、日本一の夢はかなわなかった。「下にきょうだいもたくさんいますし、刺激になれるように頑張りたい」。頼もしい“あんちゃん”は、プロで活躍する先輩たちを目指して野球を続けていく。【前田祐輔】