この若さで、ホームランに関してこれだけはっきりと断言できる選手はいない。「僕は西武の中村さんと同じ考えで、ヒットの延長がホームランではなく、ホームランの打ち損じがヒットだと思っています。自分としてはホームランを打つことを目標にプロの世界にはいったわけですから。ホームランが打てなかったら、何のためにこの世界にはいったか。悔いが残るだけですから」自信の発言に興味を持ったが、過信は大敵だ。夢に見合った努力を期待したい。

 身長が176センチで体重は95キロ。憧れの“おかわり君”(西武・中村)には及ばないが、見るからに、ふっくらして、デカイ。岡山は創志学園から一昨年のドラフト6位で入団。2年目。オリックス期待の大砲・奥浪鏡内野手(19)が、打率.304、ウエスタン・リーグ4位という成長の証しを引っ提げて鳴尾浜球場にやってきた。どこにいてもすぐに目に付く存在感がある。持ち味の一発長打はまだ1本。物足りない面はあるが、昨年の同時期1割台だった打率は5月3日現在.297。打率は阪神戦前に比べわずかに落としているものの打撃はウエスタン2位。バッティングに関しては一歩も二歩も前進したと見ていい。大きく育ってほしい選手だ。今後どう変わっていくか楽しみにしたい。

 今季のオリックスは大補強をした。特に奥浪が守る内野手は、アスレチックスから中島を獲得。日本ハムからは小谷野が加入。外国人も横浜DeNAからブランコが。いずれも日本のプロ野球界では実績のある選手ばかり。競争はし烈極まりないが、そうかといって指をくわえて見ているわけにはいかない。弱肉強食の世界。ここでライバルを蹴落としてこそ価値がある。まだ粗削りだ。阪神戦でもはっきりしたボール球に手を出して三振するシーンを目にした。即一軍昇格の域には達していないが、一発長打。奥浪には一貫した目標がある。故に目標を西武・中村に置いている。

 「今年のキャンプは下山コーチ(当時は二軍バッティングコーチ)にマンツーマンで指導していただきました。構えているバットの位置を少し下げ、体の重心も低くして打っていますが、まだホームランが1本しか出ていないので、これからいろいろ工夫して頑張っていきたいと思っています。ただ長打ばかりを狙ってフォームを崩したりして調子を落とさないかが心配です。現崎は一応の打率は挙げていますが、持ち味を出せていませんので納得はしていません」

 奥浪の話だが頼りにしている下山コーチは、先日行われた一、二軍バッティングコーチの入れ替えで一軍へ行ってしまった。話を聞いてきた。「彼には、まず最初に“バッティングで生きていくんだ”ということを言い続けてきました。それだけの覚悟を持って欲しかったからです。技術的には元々タイミングをとるのが遅く、うしろでしゃくる感じがあって、どうしても速い球に差し込まれるので、マシンを半分の距離で打たせたり、構えたところからバットを最短距離で出るようにしたり、速い球をはじき返せるように取り組みました。昨年2割そこそこだった打率が、今年は数字が上がっている。ソフトバンクの千賀やバンデンハークからもヒットを打っているし、だいぶ速球に対応できてきていると思う。とにかく、ボールを遠くに飛ばす才能の持ち主です。どんな球でも思い切り振ることです。あとは打球の角度などを工夫すること。楽しみな素材ですね」愛弟子のでき、自分の目で確かめていないと余計に気になる。心配するのも当然だろう。

 ホームランはパワーがあるだけで打てるものではない。簡単には打てないし、相手が打たせてくれない。私も3度のホームラン王に輝いた阪神・掛布DCの現役時代を目の当たりにしてきた。人の2倍、3倍は打ち込んで自分の形を築いた。キャンプでの特打は圧巻だった。仮に100スイングをするならその半分以上の打球は外野フェンスを越えて行く。その場でバットの出。打球の角度。ヒッティングポイント等々をチェックする。スタンドに詰めかけたファンを大満足させたものだ。そして遠征には素振り用のバットを必ず自分の手で持ち運んだ。真夜中の素振りは人を寄せ付けない鬼気迫る雰囲気をかもし出していた。素振りには何度か遭遇したが一度たりとも近寄れなかった。奥浪よ-。練習でもファンを満足させられる選手になれ。それこそが“一流”である。