昨季、1軍でプロ入り1号の逆転満塁本塁打を放った。ウエスタン・リーグでは首位打者と盗塁王の2冠に輝いた。ソフトバンク上林誠知外野手(21)。期待の成長株が今季は一変してプロの分厚い壁に阻まれている。食うか、食われるか。これが厳しい勝負の世界だ。

 今シーズンの成績をみると、不振にあえいでいる状況がよくわかる。5月23日現在159打数35安打、打率は2割2分。スランプがないと言われる足こそ8盗塁をマークしているが、昨年は一度も3割を切ったことがなかった打率がこの数字。打撃練習を見ると、一打一打、いろいろなポーズを試行錯誤しながらフォームを気にするそぶりが見られる。懸命に不振脱出に取り組むのはよくわかるが、攻守交代時の走る姿、インタビューしている時の表情はどことなく元気がない。技術面でもゲームの中での打席ではボール球によく手が出る。バットは空を切る。球はバットの芯(しん)から外れる。比較にならないが、昨年の素晴らしい活躍で、今季の成長株NO・1の期待をしていただけに、現状が信じられない。失敗を恐れるな。まだ若い。元気が一番。若さが一番。練習あるのみだ。

 どこに原因があるのか。昨年も指導にあたってきた藤本バッティングコーチに分析してもらった。「確かに悩んでいますね。でもねえ、昨年は相手チームのピッチャーが上林を全く知らないまま投げていたので、いい結果を残せたと思うんですよ。ところが、今年は攻め方が全然違います。ピッチャーによっては初球からフォークボールを投げてきたり、各チームともに研究済みで昨年みたいにまともに投げてきません。そのへんをよく考えないとね。この前柳田にも言われたんですよ。彼の場合も去年あれだけ打てば、相手は相当いろいろ研究しています。昨年と同じ攻め方をしてくるはずがないですよ。2人ともまた打てるようになると思いますが、自分でも考えなくてはね」。柳田を育てあげたコーチのひと言とあって説得力はあるものの、いまや情報社会であるのは確か、相手の研究も必須条件である。

 こんなケースも。鳴尾浜球場で行われた阪神戦。1点差負け試合で迎えた最終回。先頭打者の代打拓也が左前打して出塁。次打者は上林。出たサインは送りバント。1球目バントの構えからのバットを引いたが判定はストライク。2球目バントはしたが、バックネット直撃のファウル。追い込まれてサインは変更されたが、結局、最後は見送りの三振。何もできないままの最悪の打席に終わり、試合は0-1の負けゲーム。野球は団体競技である。団体競技はチームプレーが最優先する。打てないなら打てないなりにやるべきことをしっかり決めるのがこの世界の絶対条件。この状態では仮に1軍から声がかかったとしても、ファーム首脳陣としては推薦できない。

 素材は申し分ない。上林本人は現状をどう考えているのか。「どうしても構えがしっくりこないんです。だから、バッターボックスに入っても構えが気になって、相手ピッチャーと相対していないんです。同じことの繰り返しが不振の原因ですが、もうひとつオープン戦のころ、自分には1軍の実績はないので。何とか結果を出したい、という気持ちが強く、結果にこだわった結果が現状です」と言う。不振を振り返る表情には、昨年見せていたはつらつとした元気がない。「過ぎたるは及ばざるが如し」前向きなることも打開策のひとつだ。

 元々バットコントロールには長けた選手である。焦るな。自分に打ち克て。藤本コーチは「今は間合いを取るようにアドバイスしていますがこれは誰もが一度は通る道ですし、自分でいろいろ考えて乗り越えてほしいですね。いいバッターになればなるほど打ち易い球は投げてくれません。だから、相手の失投をのがさず一発で仕留めるだけの力をつけることです。必ず出てくる選手ですよ」。将来を見据えている。上林は「今、ポイントを少し前に置いて打つことを心掛けていますが、問題はしっくりくる構えですよね、頭ではどうすればいいかわかっているんですけど体がついてこないというか、思うように動いてくれないんです」。わらにもすがりたい心境だろう。大いに悩むがいい。結果より、成功するまでの努力という過程を重視することが大事な世界だ。道を切り開くのは己の力しかない。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)