勝って喜びを味わい、負けてくやしさをかみ締める。勝負の世界である。人生と同じ喜、怒、哀、楽があって選手は育ち、チームは強化されていく。

 鳴尾浜球場で阪神-オリックス戦を見た。なんとなく両チームの今季の成績に目を通していると、オリックスの勝敗に目がとまった。3連戦が終わって101試合を消化して32勝62敗7分けではないか。なんと借金が30。「これでは勝って喜ぶどころではない」の思いから昨シーズンを振り返ってみると108試合戦って、33勝68敗7分けと同じような数字が残っていた。これではチームの強化につながらない。

 選手は勝つことによって成長していくケースが多い。オリックスの2年間の成績を見る限り、プロ野球の世界を生き抜いていくために必要な“勝つ喜び”を味わう機会が少な過ぎる。

 確かにファームの基本方針は若い選手の育成であり、1軍戦力の調整にある。従って試合の勝敗にはあまりこだわらないのが通常の流れかもしれないが、2軍がチーム作りの原点であることを忘れてはならない。もし、チーム作りが後手に回ることがあろうものなら、チームの成長はない。現在、1軍も低迷しているオリックス。早めに手を打たないと1990年代の阪神と同じように暗黒時代を迎えてしまう。余計なお世話かもしれないが、私、ゲームの途中から打開策探しに切り替えて注目した。

 チームの活性化を図れる素材を見つけた。園部聡内野手(20)である。聖光学院からドラフト4位で入団した今季3年目の大型選手、184センチ、94キロの巨体。高校時代は日本代表に選ばれた逸材。高校通算59発が物語る長距離砲だ。チームの活性化は少々の若手が台頭したぐらいでは効果はない。ベンチが大いに活気付く景気のいいホームランを量産できる、若手の一発屋が成長してくれることが一番だ。園部が見せてくれた。「完璧でした。1、2、3のタイミングでいきました。ああいうホームランは最高に気持ちいいですね」3連戦の初戦だった。ゲームは3点ビハインドの7回2死一、三塁。代打で登場するや打った瞬間ホームランとわかる豪快な1発。まさに完璧な8号3ランだった。

 翌日の2戦目は「3番一塁」で出場。相手は1軍でも2桁勝利を挙げたこともある岩田からの9号ソロ。左中間にライナーで突き刺さる文句なしの1発。翌々日も3番にどっかと座ったが、相手が恐れをなしてか3打席連続の四球だった。「打たせてもらえませんでした」と笑っていたが、ここまでの経過は決して順調に来たわけではない。どちらかといえば波乱に富んだ3年間である。事の始まりは入団した年の6月に襲った右肘痛。練習すらままならなくなって揚げ句の果てには、まさかの育成選手への降格。「ショックもありましたが、どちらかといえば腹立たしかった」。今でこそ笑って話せるようになったが、その反発心が今季再び支配下選手に復帰する糧となったのは間違いない。

 持ち味はチームの活性化が期待できる長打。下山バッティングコーチは「もともと長打力はある選手ですし、素質も申し分ない。入団した年にちょっと肘を痛めたりして育成に降格しましたが、もう大丈夫ですし、いまはストレートをしっかりとらえられるようになって、変化球も対応できるようになってきました。これからです。楽しみですね」。成長を認めると同時に近い将来を楽しみにしている。

 バットを振って、振って、振りまくった成果だろう。5月の終わりから6月にかけて6本のホームランを放った。努力が実った。7月の初めには支配下選手に再登録され、即1軍に昇格した。

 「いろいろありましたが、やっと支配下選手に復帰できたのはうれしいですね。1軍では3試合に出場して2本のヒットを打たせていただきました。ホームランは打てませんでしたが、今度まで置いておきます。きっかけですか……。とにかくキャンプからバットをよく振りました。田口監督から、打ちにいく時、体が開いて出て行くクセがあるから、左肩で向かっていくようにのアドバイスを受けまして実行しています。そのフォームがなんとか身についてきたのが、いい結果につながっていると思います」(園部)。

 今季のウエスタンでは60試合に出場し172打数51安打の打率2割9分7厘、9本塁打、26打点。目に見えて成長している。チーム上昇の起爆剤になれるか。もっと、もっとバットを振り込んでバットに磨きをかけてほしい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)