しばらく鳴尾浜球場はチーム不在だった。梅雨入りした。蒸し暑い。湿度が高い。高齢の私にはいい休養になったかもしれないが、読者の皆さんに話題を提供する義務がある。10日ぶり、やっとチームが帰ってきた。早速、球場へ向かった。阪神-広島戦。1軍はトップ争いをしているが、ファームでの両チーム。戦力を比較しながらゲームを見ることにした。3連戦、結果は阪神の2勝1敗だったが、今季の対戦成績、広島の10勝7敗2分けが物語るように堂林、下水流、メヒア等のバットの振りは鋭い。そして、3戦目には投手でも広島1軍のさらなる躍進を裏付ける若手が好投した。トータルするとやはり広島か--。

 今回はその好投した若手投手にスポットを当ててみた。ストレートに力がある。最速140キロ台の後半だったが、球が生きている。復活間近かと見たピッチャーは今年デビューしたばかりの中村祐太投手(21)182センチ、80キロ、右投げ、右打ち。関東第一から2013年ドラフト5位で入団した本格派右腕。すでに1軍で3勝をマーク。現在のファーム生活は右脇腹に違和感を感じての降格だったが、大事に至らず今回でウエスタン3試合目の登板。持ち味のストレートの威力は戻った。

 水本2軍監督は「もう大丈夫でしょう。現状ではもうファームで投げさせる予定はありません。本来の威力は戻っていますね」と見た。今季の飛躍を期待する若手。5月3日のデビュー当日は、わが事のように勝利を祈っていた同監督だが、今回は無事の復活を待つばかりだ。

 大きな期待を寄せているのは佐々岡ピッチングコーチも同じだ。先発投手として手塩にかけて育ててきた若手。1歩1歩着実に力をつけてきた同コーチの指導があってのこと。「力のあるストレートが戻ってきましたね。彼の場合、真っすぐあってのピッチャーです。あの真っすぐがあるから変化球が生きるわけで、ストレート中心の組み立てであれだけ投げられたら大丈夫でしょう。現時点ではもう1度ファームでの登板は考えていません」成長するまでの過程にはいろいろあった。現状が気になるのは当然だろうが、同コーチの表情は不安なしと受け取れた。直接指導にあたっている監督とピッチングコーチが、今後のファームでの調整は不要と見てとった。完全復活の証だ。

 今季の中村祐。シーズン当初はまだウエスタンの試合に登板していたが、初となるひのき舞台はホームグラウンド・マツダスタジアムのマウンドだった。中日戦。緊張のピッチングは5回を投げて3点を奪われたが、デビュー戦は勝利投手となる好スタートを切った。ここへたどり着くまでの道程は決して平たんではなかった。1、2年目プロ入りしたものの2軍戦での登板がわずか2試合ずつ。練習あるのみ。毎日が野球漬け。厳しい道程も己のため。階段を一段一段力強く地を踏み締めてあがった。4年目、やっと地道な努力が実った。うれしいデビューも大敵の故障が襲う。大事には至らなかったが、ファーム降格の遠回りをした。中村祐は「もう痛みは全然ありませんし大丈夫です。今日はストレートに力があったと思いますし、コントロールもまずまず思ったところへ投げることができました。1軍ですか……。いつ上から声がかかるかはわかりませんが、いつお呼びがかかってもいいように頑張ります」ピッチング内容が良かったのだろう。表情は生き生きしていた。

 そのピッチング内容。6イニング投げて投球数は90球。被安打は3本のみ。奪三振が6で与四球は1。与えた得点は初回、2死から北條の中前へポトリと落ちる不運なヒットで許した1点のみ。4回に北條の右前打と新外国人ロジャースの左翼線二塁打で招いた無死二、三塁のピンチ。ここで1軍経験者の今成を三振。江越を二飛。新人長坂を三振に仕留めたピッチングは圧巻だった。球に力があり、完全にバッターをねじ伏せた内容。「まだ先のことはわかりませんが、まだペナントレースの先は長いですから。今まで以上にチームの勝利に貢献できるように頑張ります」は中村祐。広島にまた若い生きのいいピッチャーが加わる。日刊スポーツの予想を見た。今日(17日)からの阪神戦(1軍)3試合目の先発になっている。こんなピッチャーを見て思うのは、今年のセ・リーグやはり広島だね。ピッチングに注目したい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)