恐怖心-。病み上がりの選手には一番の大敵である。故障するといつまでもつきまとう厄介もの。練習中でも、いつも通り普通に動いていても、ちょっとしたひっかかりや痛みを感じると即、気持ちの上で反応する。頭に浮かぶのは「再発」の恐怖である。再発しようものなら練習すらままならない。大きな夢と希望を抱いて飛び込んだ大好きな野球の世界。「また、しばらく野球ができない。いや、それどころか野球生命が…」どうしてもマイナス思考が先走る。

 「野球選手でありながら、野球のできない」もどかしさは私も何度か経験した。いたたまれない選手の気持ちはよく分かる。阪神望月惇志投手(20)が昨年12月、腰部ヘルニア手術を受けた。術後4月17日のオリックス戦初先発を取材してみた。経過は良好と出た。

 順調とはいえ、まだ無理はできない。オリックス戦は3イニングと決めていた。ゆったりしたフォーム。重心をしっかり右足に残してから投げ込むストレートは最速152キロをマーク。1安打を許したものの奪三振3、与四球1、失点、自責点0の内容。復活へ一歩前進した。

 「今日は先発でしたので、先頭打者を抑えることをテーマに投げましたが、先頭バッターは3回とも抑えることができましたので、一応目標はクリアできました」と手応えは感じたようだ。今季の望月の成績はこの日(4月17日)まで、4月3日の広島戦、8日の中日戦の2試合で3イニングを投げているが、まだ得点は許していない。今シーズンの防御率は3試合6イニングで0・00である。

 苦痛から解放された。やっと思いっきり野球ができる。気持ちは前向きになってきた。実を言うと私、入団した年の望月のピッチングを鳴尾浜球場で見たとき、将来は間違いなく阪神投手陣の柱の一角を担う素材だと見た。身長190センチ、体重89キロ。恵まれた体だけにあらず、球に力のあるストレート。150キロを超える球威。しっかりした考えの持ち主。足腰をしっかり鍛えて体ができてくればもっともっとスピードが増すこと間違いない。1年目の望月、当コーナーで何度か取り上げたが、あのまま順調に成長していれば本当、昨シーズンの中盤あたりから1軍に定着するのではないかと期待していた。ところが、まさかの腰痛。一進一退を繰り返す厳しい1年になってしまった。

 果たして“大敵”は-。「もう大丈夫です。昨年はずっと痛みを引きずっていましたが、今年はキャンプの頃から徐々に良くなり、ゲームに出るようになってからは、もう、恐怖心はなくなっていました。やはり、恐怖感がありましたらゲームでは投げられないと思います。頑張ります」(望月)。表情は明るい。まだ、安心とまではいかないが完治に向かっているのだろう。

 矢野2軍監督も「もう球威は戻っていると思っていいでしょう。まだ腰が悪いようなら、いい日と悪い日があってもいいと思いますが、球の力はずっと落ちていませんから大丈夫でしょう。次回は5イニングを予定しています。まだトレーナー預かりですが、次の登板で何ともなければ我々現場が預かるようになると思います」とやや安心した様子だった。

 ただ、望月が受けた腰部ヘルニア手術は、過去にピッチャーが受けた例はなく、まだ全面的に安心はできない。杉本チーフトレーナーは「次に投げて痛みなどが出なければ現場の方へかえす予定ですが、なにぶん、これまでピッチャーがしたことのない手術ですので、全面的には安心できません。完治してくれると今後の治療にも大いに参考になりますので、完全に治ってくれることを願っています」と一抹の不安はあるようだが、信じるしかない。3年目の望月。確かにまだ若い。経験は浅い。少しでも早く自分をアピールしたいところだろうが、焦りは禁物。今後の動向を注目していきたい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)