グラウンドで、もがき苦しんでいる選手を見ると、つい声をかけたくなる。ルーキーイヤーは大いにブレークした。今季4年目。長打あり、走力あり、広い守備範囲に肩もいい。阪神江越大賀(25)を見ていると、ファームで苦しむ現状が実力だとは到底思えない。昨年はそうつぶやいていた『なんぼ、どないしても、すべてがうまくいかない時はある。焦るな。悩むな』と―。何の足しにもならなかったが、今年も『いっそのこと、今シーズンはウエスタンのホームラン王になったら』こりずに声をかけていた。外野の一角に定着するならチームの戦力アップは間違いない素材。2軍でくすぶる姿は歯がゆいし、抜群の身体能力を考えると不思議でならない。「やればできる素材。実際に動きを目の当たりにしているだけにもったいない気がする。問題はバッティング。昨年は掛布前監督がマンツーマンで指導した。今年は矢野監督はじめ浜中、新井の両バッティングコーチが復活を期待してアドバイスに力を入れている。やっと、わずかながらの光が見えだした。「確かにバッティングはむずかしい。奥が深い。練習でボールを打っても、打ってもバットを振っても、振っても簡単にヒントをつかめるものではない。20日から甲子園球場で行われたナイトゲーム、対中日3連戦の結果は相変わらず。いずれの試合も4打数で、ヒットは最後の試合に放ったホームランの1本のみで5三振。問題はこの三振にある。野手の正面を突くライナーも三振も、ひとつのアウトにかわりないが、イメージが悪い。見逃しの三振があれば、ボール球に手を出して空を切る三振もある。23日現在、61試合に出場して喫した三振が81個。ゲーム数より多いのが気掛かりだ。要するにバットにボールをあてなければヒットはない。どうしても、まだこの殻から脱皮できないでいる。

 首脳陣の目はどうか、成長の可能性が高い素材。期待を寄せているのは確か。矢野監督『もちろん、江越には足がありますし、守りも安心して見てられますが、ただバッティングに関しては、こういう状態ですから、いろんなアドバイスを受けていると思うんですよ。だから、雑念がいっぱいあるはずですから、彼にはよく言うんです。江越はホームラン、打率、盗塁のトリプルスリーを達成する能力がある選手だし、何億も稼げるんだから頑張れ。とね』メンタル面でも後押ししている。

 問題のバッティング面を指導する浜中コーチ『長打は出るようになりましたが、打率が2割1分台じゃあ、いけないでしょう。彼も上体を回して打ちに行くほうですから、どうしてもバットが遅れて出てくる。それと引っ張るばかりのバッターですからアベレージは残せない。外野一角を獲るならやはり安定感も必要ですし、ある程度広角に打てるようにならないと打率は上がりません。監督(矢野)と相談しながらアドバイスをしていますし、我々はいくらでもアドバイスはしますが、自分に合ったものをつかむのは本人ですから。1人ででも思いきり打ち込んで、自分でつかんでほしいね』自分でつかめ。的を射た指導である。

 わずかながらでも見えだした“光”とは。長打と走力。ポイントを長打に向けてみると、現在のホームラン12本は目下ウエスタンリーグのトップ『少しは良くなっていると思います。ホームランがこういう形(何試合か間隔)で出るようになったのは、徐々にですが前へ進んでいるな、と思えるようになりました。いまは、バットを強振すると体とバットが離れてしまいますので、バットを体に巻きつけスイングするといいますか、バットを体の近くを通して前へ出せるように意識して練習しています』ファームとはいえ、ホームランダービートップを走るのは簡単なことではない。光と見ていいだろう。

 バッティング、まだ粗削りだがこの世界、普通のことを、普通にこなすことが大事。特別なことを考える必要はない。ちなみに盗塁は18個、チームの新人、島田、熊谷と盗塁王を競っている。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)