ワンバウンドを止める阪神梅野隆太郎
ワンバウンドを止める阪神梅野隆太郎

ワンバウンドピッチ--。今や、バッターに相対するピッチングの組み立てに大事な球になっている。我々の現役時代と近代野球との比較。進化しているプロ野球界の現状を考えた場合、一つ一つのプレーにギャップはあって当然だし、時代によっては大きな違いがある。もう、現在の野球では当たり前になっているワンバウンドの投球。ファンの方々にはあまりピンとこないかもしれないが、移り変わりを振り返ってみると面白いこともある。ワンバウンドピッチの今と昔を追究してみる。

ファンの皆さんが球場で、テレビでよく目にする現在の野球から説明した方が分かりやすいかな。最近の試合を見ていると、ピッチャーが投げたワンバウンドをキャッチャーが身をていして捕球する場面を結構目にしているはずだ。目的は皆さんお分かりだと思うが、バッテリーが打者の心理を読み、目の錯覚を起こさせるための誘い球。低めのストライクゾーンからボールゾーンに落として空を切らせたり、バットの芯を外して凡打に打ち取るのが狙い。ワンバウンドにするのは99%が変化球だが、高めへの変化球はあまり変化しないし半速球の打ちやすい失投になるケースが多いので危険。従って低めへの投球を徹底しているのが、ワンバウンドピッチの現象である。

理にかなった考え方だ。今の野球は試合であれ練習であれ、キャッチャー相手の投球でワンバウンドを投げるのは当たり前。というより、ワンバウンドピッチを勧める指導をしている。確かにバッターがワンバウンドを空振りするシーンもよく見る。今や各チームには立派な室内練習場があり、ピッチングマシーンも備えつけてある。バッターはその気になりさえすれば、いつでもバッティング練習はできるし、技術はどんどん向上しているのが現状。レベルが高くなっていくバッターを封じ込む手段を考えると、理にかなった攻め、バッテリー間の共同作業しかない。進化しているバッターへの対抗措置なのだ。

ピッチャーが、バッターが手を出してくれる範囲の微妙なコントロールをつけるのも大変だが、厳しいのはキャッチャーだ。ただでさえ練習量の多いポジションなのに、また1つ厄介なプレーのマスターが義務づけられた。数年前からよく目にするシーンだ。試合前の練習でも連日バッテリーコーチから、ワンバウンドの捕球練習でしごかれている。バッテリーの共同作業とあらばいたしかたないところだが、ワンバウンドの扱いは実に複雑である。

ワンバウンドの投球を大きくはじく捕手梅野。打者は長野
ワンバウンドの投球を大きくはじく捕手梅野。打者は長野

不規則に跳ねる。球の回転によって、グラウンドの状態によって毎回のように跳ねる方向が変わる。特に変化球はワンバウンドすると、投げた球が通常変化する方向の逆に跳ねる。要するにスライダー系の球はシュート気味になる。そこへグラウンドの状態が絡んでくるから複雑極まりないが、ワンバウンド捕球で一番大事なことは後ろへそらさないこと。両膝をついて体で球を止める体勢をとって捕球している。そういえば捕手陣、ブルペンでのピッチング練習でもマスク、プロテクター、レガースといった防具をつけているのは、いつ来るか分からないワンバウンドを捕るための備えなのだ。捕手の生傷は絶えないという。

さて……半世紀強前を振り返ってみることにした。このコーナーのポイントは当時との比較だ。あの頃を思い出してみる。私、決して記憶力がいいとは言えないが、入団した頃、2年目、3年目を振り返ってみるものの、どう考えてもワンバウンドを意識して投げたことはない。どちらかといえば「投げてはいけない」という気持ちの方が強かった。それどころか、ピッチング練習で何球もワンバウンドを投げようものなら、間違いなく「ノーコン投手、制球力に問題あり」のレッテルを貼られ、力不足の烙印まで押されたものだ。もちろんこの世界、良くも悪くもワンバウンドが全てではない。速い球、スピンの利いた球、変化球のキレなどへの評価もある。持ち味を磨いて桧舞台に立った投手は何人もいた。

こんな光景にも遭遇した。ある投手がピッチング練習をしている横を通り過ぎたときのことだ。「お前なあ、どこへ投げとんねん。自分で拾ってこい」確かにワンバウンドだった。先輩キャッチャーから大目玉を食らい、某投手「すいません」一言謝ると泣く泣くボールを拾いに行っていた。ワンバウンドを推奨する今。全く評価されなかった昔。同じプロ野球でもこのギャップ。進化と見るしかないと思うが……。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

ワンバウンドした投球を体全体で止める練習を行う阪神梅野隆太郎
ワンバウンドした投球を体全体で止める練習を行う阪神梅野隆太郎