元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。2017年1回目のコラム(31回目)は「過去10年ドラフト1位選手の活躍に見る考察~セ・リーグ編」です。

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 今月末からWBCに向けた侍ジャパンの合宿が始まる。球界を代表する28選手のうち16選手、57%超がドラフト1位(希望枠含む)入団だった。「ドラ1」という響きがそうさせるのか、チームの顔、球界を代表する選手としての期待値も大きい。今回は12球団をセ・パ2回に分けて「過去10年ドラフト1位選手」の入団時と直近成績をチェック、そこから各球団のドラフト戦略、育成状況がどうかを見る。もちろん、2位以下でも偉業を成し遂げた選手はいるが、今回は「ドラ1」にフォーカスする。

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【広島】

 06年高1位 前田健太(10年MVP、最多勝2回、防御率3回、奪三振2回、沢村賞2回)

 06年希望枠 宮崎充登(11年オフに現役引退)

 07年高1位 安部友裕

 07年社1位 篠田純平(15年オフに現役引退)

 08年大1位 岩本貴裕

 09年高1位 今村猛

 10年大1位 福井優也

 11年大1位 野村祐輔(12年新人王、16年最多勝、最高勝率)

 12年高1位 高橋大樹

 13年大1位 大瀬良大地(14年新人王)

 14年大1位 野間峻祥

 15年大1位 岡田明丈

 10年の1位の顔ぶれを見る。マエケン、今村、福井、野村、岡田、大瀬良、野間とチームの戦力になっている選手が多い。ドラフト戦略はここまで成功と言えるのではないだろうか。12選手のうち大瀬良は3球団競合の激戦をくじで制したが、マエケンを含めくじを引かない“1本釣り”が7人。昨年16勝を挙げ、セの最多勝、最高勝率の2冠に輝いた野村も単独指名だった。相手球団の狙いをしっかり把握し、実力選手を競合せずに競り落とす「単独路線」のドラフト戦略が印象的だ。情報を上げるスカウト陣も汗をかいているのだろう。


【巨人】

 06年高1位 坂本勇人(12年最多安打、16年首位打者、最高出塁率)

 06年希望枠 金刃憲人(現楽天)

 07年高1位 藤村大介(11年盗塁王)

 07年大1位 村田透(10年から米マイナー、今季から日本ハムへ)

 08年高1位 大田泰示(16年オフに日本ハムへトレード)

 09年社1位 長野久義(10年新人王、11年首位打者、12年最多安打)

 10年大1位 沢村拓一(11年新人王、16年最多セーブ)

 11年高1位 松本竜也(除籍処分)

 12年大1位 菅野智之(14年MVP、最優秀防御率、16年防御率、奪三振) 

 13年社1位 小林誠司

 14年高1位 岡本和真

 15年大1位 桜井俊貴

 菅野、沢村、小林、長野、坂本ら野手、投手のバランスがいい。タイトルホルダーも多く、ドラフト戦略は一定の成果を見せているのではないだろうか。今回の侍ジャパンにも坂本、菅野、小林が選ばれた。沢村、長野も代表クラスの実力の持ち主で、球界を代表する顔ぶれが多いという印象がある。16年オフのFAで大型補強したせいか、外部から選手を獲得するイメージがあったが、そればかりではない。内部からも育成は順調なことがうかがえる。


【DeNA】

 06年希望枠 高崎健太郎

 06年高1位 北篤(現巨人)

 07年社1位 小林太志(14年オフに引退)

 07年高1位 田中健二朗

 08年大1位 松本啓二朗

 09年高1位 筒香嘉智(16年本塁打、打点)

 10年社1位 須田幸太

 11年高1位 北方悠誠(現愛媛マンダリンパイレーツ)

 12年大1位 白崎浩之

 13年社1位 柿田裕太

 14年大1位 山崎康晃(15年新人王)

 15年大1位 今永昇太

 新人イヤーで8勝の今永、山崎康、須田、田中健、筒香が育っており、まずまず。ご存じの通り昨季2冠の筒香がズバ抜けている。高崎がもう一つ。小林も期待に応えられなかった。06年から数年ドラ1選手がくすぶっていた時代はDeNAの低迷期と重なっている。


【阪神】

 06年高1位 野原将志(13年引退)

 06年希望枠 小嶋達也(16年引退)

 07年高1位 高浜卓也(現ロッテ)

 07年大1位 白仁田寛和(16年オリックスで引退)

 08年大1位 蕭一傑(現在は台湾でプレー)

 09年大1位 二神一人(16年引退)

 10年社1位 榎田大樹

 11年大1位 伊藤隼太

 12年高1位 藤浪晋太郎(15年奪三振)

 13年大1位 岩貞祐太

 14年社1位 横山雄哉

 15年大1位 高山俊

 06~09年のドラ1が特に厳しかった。07年の高浜(ロッテ)は除いて09年までNPBから消えた選手が5人は少し多い。榎田も1年目62試合登板の活躍だったが、昨季は35試合とちょっぴり右肩下がりが気になるところ。11年に即戦力野手で獲得したはずの伊藤隼が物足りない結果となり、高山を再度即戦力野手でアタックする流れとなったのではないか。06~09年のドラ1が戦力となっていれば30歳前後の中心選手として回っていたはずだが、その影響が中堅どころ不在のチーム選手層に影響しているのではないだろうか。


【ヤクルト】

 06年高1位 増渕竜義(15年引退)

 06年希望枠 高市俊(10年引退)

 07年高1位 佐藤由規

 07年大1位 加藤幹典(12年引退)

 08年高1位 赤川克紀(15年引退)

 09年社1位 中沢雅人

 10年高1位 山田哲人

 11年高1位 川上竜平(16年戦力外)

 12年社1位 石山泰稚

 13年大1位 杉浦稔大

 14年社1位 竹下真吾

 15年大1位 原樹理

 12人中5人が引退。12年の石山も入団年は60試合で防御率2・78と活躍したが、昨年は13試合登板にとどまった。入団時と直近と比べ右肩上がりは、山田哲人ただ1人。山田を除きドラ1が活躍していないと言っても過言ではない。ここまでくると育成面の現場責任というより、むしろドラフト戦略に問題があるのではないかと思ってしまう。同情の余地もある。ここ数年はくじ負けしている。10年の山田は外れ(斎藤佑)外れ(塩見)1位で大当たりだったが、ここ5年を見ると15年高山俊×、14年安楽×、13年大瀬良×、12年藤浪×、11年高橋周平×と第1希望で獲得できない状況が続いた。16年は寺島を単独指名できただけに甲子園を沸かせた左腕に期待したい。


【中日】

 06年高1位 堂上直倫

 06年希望枠 田中大輔(16年オリックスで戦力外)

 07年高1位 赤坂和幸(11年から野手)

 07年大1位 山内壮馬(16年楽天で戦力外)

 08年社1位 野本圭

 09年高1位 岡田俊哉

 10年大1位 大野雄大

 11年高1位 高橋周平

 12年大1位 福谷浩司

 13年高1位 鈴木翔太

 14年社1位 野村亮介

 15年高1位 小笠原慎之介

 ともに3球団競合の末、獲得した堂上、高橋周の潜在能力が高いだけにこの2人には物足りなさを感じる。堂上も10年目の昨季ようやくキャリアハイの131試合に出場し打率2割5分4厘の成績を残したが、まだまだやれる。高橋周の4本塁打も少ない。野手のドラ1だけに奮起に期待したい。今回、侍ジャパンには岡田が選出され、2015年のプレミア12では大野も選ばれた。代表クラスが着実に育っている点は評価できる(過去11年間にドラ1の枠組みを変えると平田も侍入り)。ドラフト戦略は可もなく不可もなくといったところだが、高校、大学、社会人とバランスも考えた指名となっているようだ。ここ数年では13年鈴木、14年野村が目立たない点が気になるところ。


 ドラフト1位はご存知の通り、その時代のアマNO・1の実力選手だが、過去10年を見てもわかる通り、消えていく選手も多い。技術習得のために何千回、何万回と気の遠くなるような練習を繰り返すことのできる根気、けがの少ない肉体を持った者のみが生き残ることができる。そんな真摯に野球と向きあう後ろ姿をチームメートも見ている。そしてチームの大黒柱として野球の実力とともに信頼も得ていく。侍ジャパンの小久保監督が現役選手を引退する際だったか「自分には野球の才能はなかったが、努力する才能があった」と謙虚に話したコメントを耳にした。野球の才能に加え、10年以上プレーするためには常軌を逸するほど、努力し続ける才能を持っているかが、むしろ一番大事なのかも知れない。


9日はパ・リーグ編。


 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)