16日に京セラドーム大阪で行われた阪神-広島戦は、なんとも異様な盛り上がりを見せました。言うまでもなく、制球力を中心とした不振で2軍落ちしていた藤浪晋太郎投手が1軍に復帰した試合だったからです。

 試合前から藤浪に声援が飛び、いつもとは違うムード。必死な感じが高校野球のようでもありました。結局、藤浪は声援もむなしく5回途中7安打3失点。課題のコントロールも5四球2死球、おまけに相手先発の大瀬良大地に当ててしまうなど乱調は変わらず、KOされてしまいました。

 虎党、いや野球ファンには残念な結果に終わったこの試合、舞台裏でも別の懸命な戦いが繰り広げられていました。大阪本社版の新聞コラムでも触れましたが、あらためて書いておきたいと思います。

 この試合前、京セラドーム大阪に来場したファンの中で先着1万5000人にプレゼントが配られました。それは藤浪のボブルヘッド人形、つまり首振り人形でした。

 藤浪の復帰登板日に合わせたとはすごいタイミングです。しかし、もちろん、違います。さすがに準備が必要なのに、そうはうまくはいかない。関係者に話を聞くと事情が分かりました。

 過去の状況を見て、甲子園球場に比べ、京セラドーム大阪は集客が課題になることがありました。同じ本拠地開催にもかかわらず観客の入りが違う。逆に言えば、甲子園独特のムードも阪神戦を見る理由の1つになっているということでしょう。

 それはともかく、阪神営業担当はこのカードでの集客を狙い、開幕前から今回の首振り人形の配布を企画しました。ファンに対して誰の人形が欲しいか、について2月から3月初めにアンケート。その結果、鳥谷と藤浪の2人に決まったのです。3月15日の時点で8月15日は鳥谷、同16日は藤浪の人形を配ることが決まっていました。

 そこに藤浪の復帰登板。まさに偶然のタイミングでぴしゃりとあったわけです。開幕前の時点で2軍落ちも含めて想定外でした。

 企画がズバリはまった営業担当は喜んだのですが、今度は想定外の思わぬアクシデントが起こってしまいました。当日も報道されましたが、球団が用意した1万5000体のうち、約6000体が破損するという事態が行ったのです。

 判明したのは15日夕方だったといいます。すでに1万5000体を配布することはファンに告知しています。そこで配れなかった約6000体については球場で観客にはがきを渡し、後日の発送にすることを決定。特製のはがきを用意し、それに自分たちの手で1枚1枚、切手を貼ったといいます。

 なにしろお盆休み中の出来事です。業者への手配もままならず、作業は夜を徹して行われたようです。そして16日、ホームページ上で事態を明かし、トラブルは起こらなかったのです。

 ファンサービスはスタッフの踏ん張りで事なきを得ました。しかし藤浪はいい投球をすることができませんでした。それでも素材の良さは言うまでもない存在。スポーツに限らず、誰にもでも、いいとき、悪いときはある。現状を受け入れ、焦らずに落ち着いて、やり直せば、必ず復活できると、考えています。

1万5000人にプレゼントする予定だった「藤浪晋太郎選手ボブルヘッド人形」(撮影・上田博志)
1万5000人にプレゼントする予定だった「藤浪晋太郎選手ボブルヘッド人形」(撮影・上田博志)