<セCSファイナルステージ:広島4-1巨人>◇第2戦◇18日◇マツダスタジアム

正直、かなわんな。こんな試合を見せられるとそう思ってしまう。巨人の左腕・田口麗斗の前に沈黙を続けた広島打線。巨人の指揮官・高橋由伸が攻めの継投で7回に登板させた2番手・畠世周も打者5人までは完璧だった。しかし6人目の打者・松山竜平に出した1つの四球ですべての流れが変わった。

松山の代走は上本崇司だ。阪神上本博紀の実弟。念のため。その上本は打者・新井貴浩の1ボール2ストライクからの5球目で二盗を決める。そして新井が同点適時二塁打。そして菊池涼介の勝ち越し3ランだ。たった1つの四球で流れが…、と書いたが同じく大きいのは盗塁だった。

1点を追う8回の攻撃。2死一塁で代打策である。一般的に言えば、ここは盗塁はしない場面だ。失敗してアウトになればチャンスはついえる。なにより代打を出した意味もなくなってしまうからだ。だが広島には関係ない。

「あそこは走る場面でしたね。もちろん条件がそろえば、です。カウントとか投手のクイックモーションが速い遅いとか。そういう面で走れると思ったから」。遠回しに畠のモーションが大きかったことを言いながら、広島の内野守備走塁コーチ・玉木朋孝はそう説明した。

今季、球団別盗塁数のトップはもちろん広島だ。95盗塁を決めた。2位は意外にも? 77個の阪神だ。あまり動かないイメージだが盗塁数では広島に次ぐものを残している。だが内容はどうだったか。勝負の流れを変えるような盗塁はあまり記憶がない。

この日、大阪市内で阪神新監督・矢野燿大の就任会見が行われた。そこで矢野は自身の目指す野球スタイルについて3つのポイントを述べたという。「超積極的」「あきらめない」「誰かを喜ばせる」の3点だった。

実際に今季、2軍監督として矢野はナインをガンガン走らせた。まさに超積極的だった。1軍でもそのスタイルを貫いてほしいと思う。今季限りでユニホームを脱いだ金本知憲の1年目16年シーズンも序盤はそんなムードだった。

とてもいいなと思うのは「誰かを喜ばせる」という言葉だ。この日、盗塁を決めた広島上本は前日、守備固めで出た。シーズン最終戦でやはり守備固めで出たのに失策をしたので「ここは絶対」と気合を入れていたという。そしてこの日の盗塁だ。

「ボクは守りと走ること。それが仕事。それだけがチームのためにできることなんで」。上本はキッパリ言った。誰かのために。こんな気持ちがチームに浸透してくれば阪神も勝てるはずだ。(敬称略)