スポーツの世界では、時に「ラッキーボーイ」と称される選手の活躍が、勝敗のカギを握ることがある。プロ、アマ問わず短期決戦ではなおさらだろう。

 3月19日に開幕する第89回選抜高校野球大会に出場する前橋育英(群馬)の荒井直樹監督(52)は、期待する選手に下位打線の2人の名前を挙げる。8番の飯塚剛己外野手(2年)と9番の黒沢駿太内野手(2年)。2人を語る監督の言葉は熱を帯びた。

 荒井監督 8、9番の2人が何かをやってくれるんじゃないかと期待しているんです。関東大会以降、一生懸命課題に取り組んで、成長している。

 昨秋の関東大会、前橋育英は準決勝に進出し、センバツ出場を決めた。吉沢悠(2年)、丸山和郁(2年)を中心とした豊富な投手陣が原動力。センバツでも継投が勝負のカギを握るだろうが、荒井監督は「8、9番がうまく上位につなげば、得点につながる。当然、投手陣や中軸にも期待していますが、楽しみな存在です」と推した。

 明確な理由がある。荒井監督は「よく2人で練習しているんです。この冬も1つのことを徹底してやっていてね。本当に根気強く。そういう姿が私は大事だと思っています」と説明した。飯塚、黒沢はこの冬、打撃力向上をテーマに、「逆の動き」を意識しながら、スイングを繰り返した。分かりやすく言えば、巨人阿部らの「ツイスト打法」だ。「打撃力が低いので」と声をそろえるように、課題克服に向け、居残りで練習。打球スピードや飛距離など成果が出始めた。

 選手、監督で超一流に上りつめた野村克也氏はかつて、こんなことを言った。「不運には必ず、それなりの理由がある。そして、幸運にもそれ相当の過程がある」。

 荒井監督は、レベルアップした技術とともに取り組む姿勢を評価する。昨夏の甲子園はともにメンバーを外れ、応援部隊の「踊り子」として、アルプススタンドから声を張り上げた。初となる憧れの舞台でのプレーに、黒沢は「本当に楽しみ。この冬に取り組んできたことを出したいです」と目を輝かせ、飯塚は「自分の仕事をしっかりすること。足でかき回せたら」と50メートル走5秒9の俊足をアピールする。

 2人で合わせたかのように、好きな言葉は「継続は力なり」。その言葉を貫き、ひと冬で着実に成長した。荒井監督が「兄弟」と呼ぶ2人が、前橋育英の「恐怖の下位打線」を形成する。【久保賢吾】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)