神戸国際大付(兵庫)には、キャッチャーが頼るキャッチャーがいた。

 18日に行われた第99回全国高校野球選手権の3回戦。神戸国際大付は天理(奈良)に延長11回の末、1-2で敗れた。青木尚龍監督(52)がナインに話した「思いのまま、頑張って、楽しんでやれ」の言葉通り、試合後選手に涙はなく、晴れやかな表情を浮かべていた。

 「背番号13」の荒邦準捕手(3年)は、昨春に「背番号2」を付けていた。しかし昨秋、新チームになってからの「背番号2」は猪田和希捕手(3年)が付けた。強肩が買われて、外野手からコンバートされたからだ。「甲子園が決まった時、正直複雑でした。自分は出ていなかったので」。今夏の甲子園、荒邦がグラウンドに立つことはなかった。「悔しいです。出たかった。でも勝つためには猪田が出て(自分は)ブルペンで3人(の投手)を作ること、マウンドに送ることが仕事だと思った」と最後まで自分の出来る役割を全うした。

 ブルペン捕手として「いかに気持ちよく投げさせるか」を重要視。投手によって言葉のかけ方を変えた。この日先発した岡野佑大投手(3年)には「いいよ。あのボール次はこうしたほうがいいよ」と優しく声をかける。花村凌投手(3年)と黒田倭人投手(3年)には「あかん!絶対あかん!」と強い口調で言ったほうが、気持ちを乗せることが出来た。

 「ピッチャー3人との信頼関係では負けない」と普段からコミュニケーションも大事にした。2番手で投げることが多い黒田と花村とは試合中ブルペンで話し、先発が多い岡野とは寮で食事を取る時、出来るだけ近くにいるように心がけた。「何かがあれば出られるように。腐っていたら駄目だと思った」といつでも行ける準備をしていた。

 そんな荒邦を、猪田は信頼した。捕手に転向が決まると「教えてくれ」と荒邦に頼みに来た。「頼ってくれるから、(試合に)出た時にちゃんと出来ないといけないと思う。練習で気が抜けないから腐らずにやれた」と気を抜くことはなかった。試合中に猪田はどうしても配球に困った時、ベンチを見た。荒邦は「内に弱いぞ」などジェスチャーでアドバイスを送り助けた。

 「猪田が上達して、とってもうれしかった」と荒邦は笑顔で振り返った。この日敗れた瞬間、猪田は荒邦に言った。「ごめんな。ありがとう」。荒邦も答えた。「おつかれさん。よう頑張った」。

 荒邦は卒業後、大学に進んで野球を続ける予定。「レギュラーを取って、1番手になれるように」。次は「背番号2」は譲らない。【磯綾乃】