ダルビッシュ有投手が先日、朝日新聞のインタビューで日本の高校球児に向け「何百球の投げ込みとか、何千本の素振りとか、そんなのを頑張っちゃダメなんです」とメッセージを送った。自分で考える大切さや休養の重要性を訴え、甲子園についても「けがのリスクを抑えた、もっといい大会にすることは出来るはず」と注文をつけた。

 ただ、こうした声はダルビッシュ以前にも少なからずあり、それでもなかなか改善されないもどかしい現実もある。筆者は、子供たちにとって日本の高校野球しか選択肢がないのはおかしいと考える。そこで大リーガーを夢見てカナダでプレーする1人の高校生を紹介したい。

 大阪出身の八尋大誠(やひろ・たいせい)くん(17)。186センチ、80キロの大型左腕で小学6年時にはオリックス・ジュニアに選出され、中学ではヤングリーグ・堺イーグルスに所属。強豪高の誘いもあったが野球留学を手伝う日本の企業を利用してカナダへ渡った。

 「カナダに来ることに対して怖かったということはないです。楽しみの方が大きかった」。バンクーバー近郊でホームステイをしながら、BCPBL(ブリティッシュコロンビア州プレミアベースボールリーグ)のアボッツフォード・カージナルスでプレーする。同州の高校には野球部がなく、有力選手は4月から7月のプレーオフまで熱戦を繰り広げるこのリーグに所属する。巨人マシソンもBCPBLの卒業生だ。

 八尋くんは2年目の昨年、レギュラーシーズン9勝(リーグ最多)防御率1・72(同4位)73奪三振(同2位)と大活躍。プレーオフも含めた17試合では87回で96奪三振。MLBのスカウトが訪れ、NCAA(全米大学体育協会)1部校から進学の話も来た。現在は日本の大学も含めて進路を検討中だ。

 八尋くんの父崇之さんが感心したのがカナダに渡ってからの野球への取り組み方。チームの練習は週4日で1日2時間半。足りない部分は自分でトレーニングする。「走らされるのではなく、必要だと思ったから走るんだ」という息子の言葉を頼もしく感じたという。

 費用は決して安くはなく、だれでも簡単に留学出来るとは思わない。ただ育ち盛りの体に無理をさせずにスポーツを楽しめる環境や自分で考える力を高められる場所が、日本の高校野球以外にあるのも確か。子供たちには多くの選択肢が与えられるべきだと思う。【千葉修宏】