味方から「怒られる」ことを選んだ。花咲徳栄(埼玉)の左腕・和田慶悟投手(3年)が、己の殻を破ろうともがいている。

打線の力量は、春季関東大会優勝の東海大相模(神奈川)と並ぶといわれる。強豪校監督には「特に花咲徳栄の中軸は関東で一番」と断言する人もいる。ただ打線を褒めた人は、ほぼ例外なく「徳栄は投手さえいればね」と苦笑いしながら付け加える。

外部からの声を、和田は「分かっています」と受け止めている。秋も春も、点を取った以上に取られて負けた。甲子園に直結しない春季県大会。それでも負けて涙する打者がいた。和田ら投手陣は、野手陣から厳しく指摘された。「抑えよう、勝とう、って気持ちが見えない」と。

23日夜、樹徳(群馬)との練習試合。球場周辺のカエルの大合唱をかき消すかのように、先発和田の1球1球を野手やベンチが「批評」した。投手と野手が、お互いに話し合って決めたことだ。「今の球、意味ない!」「何でそれを続けられない!?」。直球が大きく抜けると、二塁手の羽佐田光希(3年)から「何か変えろ! 抜け方が一緒だ!」と指摘され、即座に握りを微修正した。

春季群馬県大会4強の樹徳を相手に、3回3安打無失点とまとめた。環境変化と同時に、フォームも改造。岩井隆監督(49)と話し合い、腕を少し下げた。サイド気味から投じられる最速135キロ。まだ制球の粗さは残るものの、独特の球筋に面食らう打者もいた。

「自分たちが変わらなきゃ勝てない。野手とコミュニケーションをとって、厳しい指摘もあるけれど励みになります」と和田。普段は穏やかなドラフト候補・韮沢雄也遊撃手(3年)も声を響かせ、時に荒っぽい言葉を和田にぶつけていた。

慣れないナイター環境ながら、打線は16安打に6盗塁と好調。試合は9-1と快勝した。夏の埼玉5連覇へ「投手さえいれば」があらためて如実になった夜は、何かが変わり始めたことを感じさせる夜でもあった。【金子真仁】