智弁和歌山・黒川史陽(ふみや)内野手(3年)の父洋行さん(44)は、複雑な思いで見守っていた。「素直に喜べないです。複雑です…」。0-1の6回に智弁和歌山が一時同点に追いついた時も、洋行さんはメガホンをたたきながら、満面の笑みとはいかなかった。

実は、三男の怜遠(れおん)が今年星稜に入学。怜遠はベンチ外ながら、次男史陽との「兄弟対決」となった。星稜と智弁和歌山、どちらのアルプス席で応援するか、洋行さんは悩みに悩んだという。最後は星稜・林和成監督(44)の一押しだった。「林監督が(3年生の史陽は)最後なんだから行ってきなよと。父母の皆さんも言ってくれました」と感謝しながら、智弁和歌山側に座った。

洋行さん自身も上宮(大阪)で93年センバツに出場し優勝を経験。そして長男大雅さんも日南学園(宮崎)で16年夏の甲子園に出場した、まさに野球一家だ。だから怜遠が星稜のユニホームに憧れ、親元を離れることを選んでも「みんなそうだったので」と迷いはなかった。甲子園期間中は毎日、実家に帰宅。「1日ならいいけど10日もいたら、もういいよって」と笑った。主将を務める史陽は5季連続の甲子園。「あえて何も言わなかったです。本人も5回経験しているし、精いっぱいやっていると思う」と今回は遠くから見守った。

結果は4-1で星稜の勝利。史陽は涙を流し、甲子園を去った。その姿をきっと、怜遠も見ていたはず。野球一家の甲子園物語はまだまだ続く。

智弁和歌山対星稜 延長14回のタイブレークでサヨナラ負けし、涙を流しながら引き揚げる智弁和歌山の選手たち(撮影・狩俣裕三)
智弁和歌山対星稜 延長14回のタイブレークでサヨナラ負けし、涙を流しながら引き揚げる智弁和歌山の選手たち(撮影・狩俣裕三)