3月1日、亜大対西部ガスのオープン戦。亜大の先発マウンドに立ったのは、花城直君(4年)でした。

 昨年、5月16日。国指定の難病「黄色靭帯骨化症」の手術を受けた亜大・花城直君。4回を投げ被安打7で4失点ながらも、要所では低めにコントロールされた球を投げ、奪った三振は4。

 「狙ったコースに投げられたし、変化球でストライクと空振りがとれた。今日はオープン戦で初めての先発でした。投げられたことが大収穫です」

と、試合後、笑顔で答えてくれました。(試合は11対9で西部ガスの勝利)


久し振りの先発に手応え十分の直君!
久し振りの先発に手応え十分の直君!

 手術後のリハビリも順調で痛みもなく回復しているのですが、中でも一番苦労したのは感覚が鈍くなっていることだそうです。

 「リハビリで痛みがあったり、苦しいことはありませんでした。でも、最初の頃、自分のイメージしている動きができないことがとにかく嫌でした。トレーニングは、これをやれば力がつくと思えば前向きにできる。でも実際にやってみると、イメージと動きが噛み合わない。病気の前は簡単にできた動きなのに…」


 動き始めの時は、走っていて足がもつれたり。フィールディングも、頭では動いているつもりでも、足がついていかないことも。

「最初は怖かったです。でも、悪いクセがつくのが嫌だったので、転んでもいいと思って思い切って動きました」

 

 何度も転んでは立ち上がる-。


 花城君は決して苦しい顔は見せませんでした。

 -この練習を繰り返せば、必ず投げられる-

 そう心に言い聞かせれば、前向きになれました。


 そんな地道な練習の積み重ねで見事に復帰。このキャンプではバッティングピッチャーも含め300球を投げ込んだ日もありました。

 ピッチングスタイルも少し変わりました。

 「今までは速い球やストライクで押していきましたが、力がない分、コースに低めに投げなければならない。今は低めに投げることを意識しています。キャンプでは変化球でストライクと空振りをとれるようになったことが一番の収穫です」

 トレーニングで手術した箇所や下半身を強化。感覚と動きとの誤差も少しずつなくなり、順調な回復に、「今は野球が楽しいです!」と笑顔で答えてくれました。


 実は、私の中でちょっとひっかかっていたことがありました。

 昨年の東都大学野球秋季リーグ戦、10月23日の最終戦に先発。これが手術後の復活登板でした。直君は3回1/3を投げ1失点でしたが、試合は0対3で敗戦。その前々日、駒沢大が優勝を決め消化試合だっただけに、私は花城君の復帰がうれしくてカコミ取材にウキウキしながら行きました。でも…花城君は浮かない顔…。復帰できたことよりも、神宮のマウンドで投げられたことよりも、ただひたすらこの日のピッチングを反省するばかりでした。


 この日のことを振り返って、こう話してくれました。

 「自分は病気がありましたが、チームは勝たないと意味がない。チームに戻った以上、自分よりもチームです。僕はみんなに支えられてここにいる。だから勝ちたいんです」

 石垣島から出てきて3年。入学当初はおっとりして、あまり目立たなくて。いつも先輩たちの後ろを走っていた花城君。なんだかとってもたくましく見えました。


 「チーム内の競争が激しいので、まずはそこに勝てるように。ベンチ入りが目標です。しっかり結果を残して、チームの勝利に貢献したいです」


 難病を克服して大きく成長した花城直君が、大学ライトイヤーに臨みます。


鹿児島キャンプ参加中の投手陣と。前列中央が花城直君。ライバルでも、みんな仲良しです
鹿児島キャンプ参加中の投手陣と。前列中央が花城直君。ライバルでも、みんな仲良しです

 さて、そんな亜大は3月1日、鹿児島でのキャンプを打ち上げました。

 「このキャンプのテーマは、“心を鍛える”。野球だけでなく、自分たちのあるべき姿。そういうものをもう一度見つめ直すキャンプでした」

と主将の北村祥治君(4年)が話してくれました。


キャンプ終了! みんな、お疲れさま!
キャンプ終了! みんな、お疲れさま!

 昨年10月下旬から、トレーニング器具を一新。専属トレーナーの指導の下、まずは体を大きくするウエートから取り掛かりました。

 「ウエート中心の練習は本当にキツかったです。最初の頃は立てなくなるくらいでした」

 寮に戻れば、階段も手すりを使って登るのがやっと。ウエートでつけた筋肉を、キャンプでは実戦の動きでパワーにかえていく。さらに、キャンプ中の食事は1人1日3キロのご飯を食べることが決められ、食事会場には量りを持ち込み、全員1杯1杯、ご飯を量りながら食事したそう。

 「選手の中にはこの冬で10キロ増えた選手もいます。体は強くなりましたし、パワーもついてきました」

 地道に取り組んだトレーニングは、自分との戦い。

 「自分に負けるとトレーニングの重りも上がっていかない。そういう面では、心を鍛えられたと思います」(北村君)


 あと一歩、あともう少し。この努力が大きな力に変わるのでしょう。


 「最後まで粘り強く、1点でも多く相手より得点して勝ち切れるチームになりたいです」


 V奪回へ。亜大の選手たちはチーム一丸となって春のリーグ戦へ向かって走り出しました。


写真左から学生コーチの伊達星吾君(4年)と主将の北村君。チームを引っ張る2人です
写真左から学生コーチの伊達星吾君(4年)と主将の北村君。チームを引っ張る2人です

※国指定の難病、「黄色靭帯骨化症」とは、脊髄付近の靭帯が通常の何倍もの厚さになり、骨の様に固くなり(靭帯の骨化)、徐々に脊髄を圧迫してくる病気