準決勝の広陵-天理戦が終わった後、とびっきりの笑顔で引き上げてくる選手がいました。

広陵の丸山壮史君(内野手・3年)です。

 9-6で迎えた9回表。1死から「天理がしつこくチャンスを作ってきた。流れを断ち切るためにも、アウトになってもいいから思い切り振り切ろうと思いました」と振り返るひと振りは、ライトスタンドへ吸い込まれていきました。

なんと、これが丸山君にとって、公式戦初本塁打!

 「上位につなげたい一心でした。ポテンヒットでもと思って振ったら入りました。3回戦から中井先生にスタメンで起用してもらっている。いい結果につながってうれしです!」と、笑顔で話してくれました。

 この丸山君の活躍を、まるで自分のことのように喜んでいたのは、中井惇一コーチ(22)でした。

「丸山が涙を流して歯を食いしばっている姿が目に浮かびますよ」。

 県大会、準決勝の広島商戦。0-0で迎えた5回。無死二塁で、丸山君は併殺打に倒れ、チャンスを逃してしまいました。その後、中村奨成君(捕手・3年)のソロ本塁打で1-0で勝利したものの、「中村が打ってくれなければ、自分のせいで負けていたかもしれない。勝って嬉しい反面、苦しかった」と、勝利の輪にも、1人、下を向く丸山君の姿がありました。

 試合が終わり学校に戻ってからも、丸山君は寮に帰る気持ちになれず。グラウンドでポツンと1人で佇んでいたところに、中井コーチが声をかけました。

 「お前のミスがあっても、負けないチームだ。だから、お前は何か持ってるんじゃ。初心に戻って頑張れ」

 そう言って、バットを手渡してくれました。

 それから、たった2人で、約2時間。ティーバッティングで振り込みました。

 「打っていたら、悔しさがこみ上げてきて、涙が出てきました」。(丸山君)

 泣きながら、ひたすらバットを振る。

 中井コーチは、そんな丸山君に言いました。

 「好きなだけ泣いてもいいから打て! いつか見返す場面は必ず来る。今日はみんなに助けてもらった。いつか、お前がチームを助けられるようにしような」、と。


 甲子園では、1、2回戦初戦では出場機会はありませんでしたが、3回戦・聖光学院戦では先発起用され、2回1死二塁から、先制の適時打。準々決勝の仙台育英戦でも2安打1打点。そして、準決勝での本塁打。甲子園で、しっかりチームの勝利に貢献しています!

 「みんなのために、打ちたい。ただそれだけです」(丸山君)

 チームを助けるために、バットを振り続ける。

 歯を食いしばって涙を流しながらバットを振った。あの日があるから、甲子園の大舞台で打てるんですね。

 「決勝戦でも、チームのために打ちたいです!」

 笑顔で話してくれた丸山君。あの日の涙を笑顔に変えてくれた甲子園。

 その笑顔は、誰よりも自信に満ちあふれ輝いて見えました。