14人の部員(女子マネ含む)をまとめ、公式戦初采配を振った阿部奈央監督(写真中央)
14人の部員(女子マネ含む)をまとめ、公式戦初采配を振った阿部奈央監督(写真中央)

 宮城の“ひよっこ”女性監督が、公式戦初の試合に臨んだ。

 昨年、涌谷野球部部長としてベンチ入りした阿部奈央さん(25)が、今春から監督に就任。夏のシード権につながる春季宮城大会東部地区大会2回戦で石巻と対戦した。結果は0対16(5回コールド)だったが、試合前はユニホーム姿でシートノックを行い、選手と同様に明るく、はつらつとした動きを見せ、全力を尽くした。

 宮城県高野連の調べによると硬式野球部では「宮城初の女性監督」だそうで、試合後は石巻のスタンドからも激励の拍手が起こり、球場が温かい雰囲気に包まれた。

 「今日は力の差を感じたと思います。でも私は、秋からの成長を感じることができました。一気にうまくなることはできないけれど、ここであきらめず、負けを生かし、このメンバーで夏に向かってやっていきましょう」

 試合後のミーティング。阿部監督は悔しさをにじませながらも、マネジャー兼選手として過ごした自身の高校時代を重ね合わせるように、選手たちに反省、アドバイスを送った。チームは29日の敗者復活戦で巻き返しを狙う。

試合後のミーティングでは、「監督」と「先生」、その両方の立場からアドバイス
試合後のミーティングでは、「監督」と「先生」、その両方の立場からアドバイス

 阿部監督は中学時代にソフトボール部で活躍し、高校は石巻野球部に入学。男子部員と同じ練習をこなしながらマネジャーとしてベンチ入りした。その後、東京女子体育大で体育教諭の資格を取り、昨年、部長に就任。早坂憲人前監督の異動に伴い、今春より監督を務めることになった。昨秋、1年生大会で采配を振ったが公式戦は初めて。ホームから約9メートル前に出て打つ外野ノックや、あわてて出すブロックサインは初々しかったが、本人は「練習が足りなくて申し訳ないです」と、頭をかかえて赤面、反省…。そこには「選手とともに自分も成長したい」と願う、真摯(しんし)な熱意が見えた。

外野まで打球を飛ばすことができないため、前に出てシートノックを行った阿部奈央監督
外野まで打球を飛ばすことができないため、前に出てシートノックを行った阿部奈央監督

 全国的に見ると女性の硬式野球部監督は例が少ない。過去には洛南・山村真那監督、吉田島農林・伊沢里江監督、多古・小原満里子監督などが話題になった。

 男女雇用機会均等法が施行されて20年以上。「男性にしかできない仕事」がほとんどなくなってきている時代に、野球の世界も「女性の力」を受け入れる機運が高まっている。今春のセンバツ大会から女子マネジャーの甲子園練習参加が認められたのもその1つだろう。

 阿部監督が目指す指導方針は「受容」だ。選手たちの自立を促しながら「選手の悩みや葛藤を受け入れることはできませんが、受け止めることはできる。明るさを忘れず、自分の役割を果たせる選手になってほしい」と抱負を語る。夢はもちろん、選手時代に果たせなかった甲子園出場だ。

 同居する父輝昭さんも同地区の石巻北で監督を務めており、いつでも相談できる相手がそばにいる。過去に夏4強の経験がある涌谷。仙台育英で軟式野球部監督の経験を持つ横山将部長(30)とコンビを組んでチームを向上させていくつもりだ。

 最後に「男性監督にはない、女性監督の長所はなにか?」と聞いた。

「えっと…気配り? いや、何でしょうか…???」。

 毎日が手探り状態で、無我夢中。“ひよっこ”阿部監督からその答えを聞けるのは、もう少し先になりそうだ。【樫本ゆき】