「カッコよくいこうぜ!」

 仙台育英の選手が、よく言う言葉だ。

 「勝てばカッコイイ。負けるとカッコ悪い。だったらカッコイイほうで行こうぜ!」。

 「勝ちたい」「優勝したい」と言う言葉をそのまま使わず、こんなふうに発言することが多い。

 主体性、独創性を重んじるチームカラー。全体ランニングは行うが、着ているTシャツはバラバラでカラフル。練習メニューは選手同士が話し合い「強制」という言葉は存在しない。楽をしようと思えばいくらでもできる環境。そのため、雰囲気の違うチームが毎年できあがるのが特徴だ。「勝ち負けの結果は、後からついてくるもの」。佐々木順一朗監督(57)の考えは、日本の指導者の中でも飛びぬけて前衛的といっていいかもしれない。

仙台育英の練習風景は、カラフルで、個性的。大学生の練習風景のような印象を受けることがある
仙台育英の練習風景は、カラフルで、個性的。大学生の練習風景のような印象を受けることがある

 今年のチームは系列校の秀光中等教育学校(須江航監督)時代に、夏の全国制覇を経験した選手が多い。18人中7人。リードオフマンで投手もこなす西巻賢二主将(3年)を筆頭に、勝つための準備、ふるまいを身に付けている選手が多く「大人のチーム」という印象だ。高校生がはき違えやすい「カッコイイ」を、間違えないチーム。飛び抜けた選手はおらず、勝利インタビューでも佐々木監督は「(一昨年、準優勝した戦力に比べて)実力はない」と話した。しかし、不思議な「勝ち運」がある。そんなチームだ。

 エース長谷川拓帆(3年)はとりわけ「カッコイイ」が大好きな選手だ。初戦・滝川西戦は6回2安打無失点の好投。打っては大会19号3ラン。投打に文句なしの活躍を見せた。普段、身につけるものにもこだわりがある、流行りのスポーツブランドの肘サポーターを愛用している。佐藤令央(3年)から誕生日プレゼントされたものだそうで、ラメ入りの「スペシャル感」が特に気に入っている。

 春、長谷川と話したときのことだ。「高校の侍ジャパンってあるじゃないですか。あれってどうやったらなれるんですか?」と質問されたことがあった。「ケンジ(西巻)と選ばれたいんです。だって、あのユニホーム、カッコイイじゃないですか!」と目を輝かせていたのを覚えている。中学時代に世界で戦う松井裕樹(高校選抜、桐光学園-楽天)らをテレビで見て「いつか自分も!」と夢を抱いたそうだ。しかし…。6月に発表された「第28回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」の候補選手に自分の名前はなかった。全国にはもっと上のレベルの左腕がいる。桜井周斗(日大三・3年)や、川端健斗(秀岳館・3年)などの存在を受け止め「自分のレベルじゃダメっすね~」ちゃめっ気たっぷりに笑っていた。

今夏のテーマである「全力スマイル」の文字と、笑顔を見せたエース長谷川拓帆(宮城大会にて)
今夏のテーマである「全力スマイル」の文字と、笑顔を見せたエース長谷川拓帆(宮城大会にて)

 「カッコイイ」をいったん封印し、課題の制球難を克服していった長谷川。新バッテリーを組む渡部夏史(3年)のリードで「8割の力で抑える投球術」を覚え、春の東北大会優勝を修めた。「タクホが覚醒した!」とチームメートに言われ、ますますやる気がみなぎった。宮城大会では、ある文字を帽子のツバに書き入れた。

 「全力スマイル!」。

 プリクラを撮る時に、シャッターチャンスのタイミングで画面に出てくる言葉だそうだ。どんな苦しい場面になっても笑顔を忘れない。欲を捨て、仲間のため、伝令で笑わせてくれる佐藤のために。エースのプライドを見せるつもりだ。そうすれば「カッコイイ」が「勝利」となって、チームに降り注ぐはずだから。【樫本ゆき】