第87回選抜高校野球(21日開幕、甲子園)の甲子園練習が始まった。優勝候補・仙台育英(宮城)の右腕エース佐藤世那投手(3年)が、初めて甲子園のマウンドに立った。昨秋神宮大会で頂点に立った直後に肩、肘の故障が発覚。不安を抱えながらもノースローで体作りに努め、体重は8キロ増。球威を上げ、パワーアップした姿で東北初Vを目指す。

 「完封する自信がある」。初の甲子園のマウンドで、佐藤世はもう勝利のイメージを思い浮かべた。程よく力を抜いて、16球。直球とフォークを確かめるように投げこんだ。「思っていた以上に投げやすい。今まで投げた球場の中で、一番バッターボックスと近く感じる」。感覚は最高だった。「早く試合がしたい。楽しみの方が大きい」と高ぶった。

 マウンドに立てることが、まずうれしかった。昨秋は全16試合に先発し13戦を1人で投げ抜いた。神宮大会決勝で味わう初の「日本一」は最高だった。だが、直後に不安が押し寄せる。「シーズン中はアドレナリンが出て」気付かなかったが、右肘の骨に痛みが走った。肩も疲労がたまり、動かしづらくなっていた。甲子園出場は確実だったが、「投げられるのかな」という不安と闘いながら冬を過ごした。

 出来ることは体作り。佐々木順一朗監督(55)から「体重を増やして、体幹を鍛えろ」と言われた通り、夜はご飯を茶わん3杯食べた。「嫌いだった」走りこみにも積極的に取り組み、家に帰ってからも自宅前の急坂のダッシュを繰り返した。投げられるかどうかは分からなかったが、やるしかなかった。

 回復は予想以上に早かった。2月半ばからブルペン入り。8キロ増え下半身が強くなったことで、球威が見違えるほど変わっていた。「体重がボールに乗っているのを感じる」。秋以来の実戦登板となった、今月8日の沖縄尚学との練習試合では1回を投げ3者凡退。8割の力で投げたにもかかわらず、140キロを2度マークした。トレードマークの大きなテークバックは「ひじが怖がって」まだ控えめ。だが「甲子園が解消してくれると思う。まだまだ上がる」。大会中の進化を信じている。

 「目標は優勝」とさらっと言う。幼い頃、東北高エース、ダルビッシュをテレビで見て、甲子園に憧れた。昨年夏、弟が中学生大会で全国制覇し、「日本一」をぐっと身近に感じられるようになった。1915年(大4)夏の大会で、秋田中が決勝で敗れてからちょうど100年。100年間達成できていない優勝旗の「白河越え」の期待がかかるが、気にしない。「何年ぶり、とか、東北初とか、それがプレッシャーになったり空回りして、今まで優勝できなかったのだと思う。勝つことだけ考えて、5試合投げ抜く」。優勝したい。聖地で思ったのは、ただそれだけだ。【高場泉穂】

<佐藤世那(さとう・せな)アラカルト>

 ◆生まれ 1997年(平9)6月2日、仙台市生まれ。

 ◆球歴 南光台東小2年時から野球を始め、仙台育英の中等部・秀光では軟式チームに所属。3年時にKボールの日本代表に選ばれ、インドで行われた15Uアジア選手権で準優勝。仙台育英では1年秋からベンチ入り。

 ◆「世那」の由来 生まれた前年96年にヒットしたテレビドラマ「ロングバケーション」で木村拓哉が演じていた主人公・瀬名秀俊と、F1レーサーのアイルトン・セナ(故人)から。

 ◆家族 両親と弟。弟令央も秀光中で軟式チームに所属し3年時、投手兼外野手で全国制覇。今春、仙台育英進学。