漱石先生、勝ちました! 21世紀枠で82年ぶり出場の松山東(愛媛)が、二松学舎大付(東京)を破り、創部124年目で初勝利を挙げた。かつて夏目漱石が教壇に立ち、小説「坊っちゃん」のモデルになった伝統校。亀岡優樹投手(3年)が4失点完投&3打点と活躍し、16三振を喫しながら競り勝った。

 123年待った夢の成就だ。82年ぶりの出場で、センバツ初勝利。三塁側アルプススタンドからの亀岡コールに守られ、エースは9回2死一、二塁のピンチをしのいだ。1点リードを守りきった。緑のアルプス席が、震える。松山商と一時統合していた全国制覇の65年前の夏へ、時がさかのぼった。

 「82年分の思いを背負っていますから」。アーチ型で「MATSUYAMA」と描かれた復刻ユニホームの胸を張り、亀岡が言った。その思いがあればこそ、この接戦を投げ抜けた。16三振を喫し、手にする好機は少なくても、それを必ず生かし切った。先制打、中押し打も、亀岡だった。

 「今やかの 三つのベースに人満ちて そぞろに胸の打ち騒ぐかな」。野球部創部に関わった正岡子規が、1898年(明31)発表の「ベースボールの歌」に込めた興奮の満塁機が、4回無死で巡って来た。子規が夢中になったに違いない絶好機で、亀岡が右前に適時打。2-1で迎えた6回はスライダーをとらえ、左翼手の頭上を超える2点二塁打を放った。

 学校まで10キロの道のりを亀岡は自転車で通う。坂を下る行きは30分、坂を上る帰りは45分、ペダルをこぐ。チームメートの桑原と温泉に寄って疲れを取り、息を抜く。「粘り強く、要所を抑えることができる」と女房役の米田主将が信頼する心と体を鍛えてきた。

 それでも6回裏、3点差を追いつかれた。「一番つらかった」中盤の踏ん張りどころ。目の前のアルプススタンドに支えられた。「がんばっていきましょい」のかけ声が力になった。「東高を愛する人たちの声」を心と体に吸い込んで1点リードを守り抜いた。

 50年夏の優勝メンバーも、スタンドで声をからした。1番中堅の吉井達夫さん(82)は、2回戦で優勝候補の長良(岐阜)を倒す決勝打を放った。「打ったときの手応えは今も覚えています。甲子園はそういうところです。後輩たちはよく食らいついてくれました」。3番右翼の大川彰さん(同)は「感無量です。久しぶりの甲子園やから。これだけの大歓声で、立派なグラウンドで…」。声を震わせた。

 現役生も大OBも声を合わせ「亀岡! 亀岡!」。創部124年目で初めて生まれた春の勝利投手は「面白い試合でした」と晴れやかに笑った。【堀まどか】