強運の4番打者が、奇跡を呼び込んだ。0-0の7回2死満塁。3球目の内角直球をフルスイングした東海大四(北海道)の邵広基(そう・かんぎ)一塁手(3年)には「(失策が)あるな」という予感があった。直球に差し込まれ、フラフラと上がった打球を、豊橋工の右翼手と二塁手が懸命に追っていたからだ。

 「連係があやふやだと思った。『落ちろ、落ちてくれ』と願っていました」。打球から目を離さず、全力で走った。思いが通じたのか、右翼手との接触を避けた二塁手が落球。一気に走者がかえり、東海大四のスコアボードに「3」が刻まれた。ラッキーボーイは「運はいい方なので。ビンゴ大会でカラープリンターをゲットしたこともあります」と、照れ笑いだ。

 祖父母は韓国の出身。「笑顔でいれば、いいことがある」が身上で「めっちゃポジティブシンキング」と自称するが、昨秋の明治神宮大会では、その笑顔が消えた。大敗した2回戦の浦和学院戦。ユニホームを忘れ、試合に出られなかった。試合開始直前までオーダー変更等でチームは混乱し「自分のせいで負けた」。情けなくて、悔しくて、帰りのバスの中では涙が止まらなかった。

 汚名は、甲子園ですすぐと決めている。奇跡を演出したとはいえ、この日はプロ注目右腕に抑え込まれて3打数無安打。内角に切れ込むスライダーに手を焼いた。「点が取れたのは良かったけど、これでは満足出来ない。4番として、チャンスで得点に結びつく打撃をしたい」。思い描くのは、スカッと爽快なクリーンヒットか、それとも豪快な放物線か。次戦は運ではなく、技ありの一打で、8強入りのヒーローを狙う。【中島宙恵】