人口約3300人の天塩町からやって来た“カントリー・ボーイ”が、夢舞台で大仕事をやってのけた。夏春連続出場の東海大四(北海道)が21世紀枠の豊橋工(愛知)を下し、昨夏の甲子園に続いて初戦を突破した。エース大沢志意也(3年)が3安打10奪三振で相手打線をシャットアウトし、北海道勢の春夏通算110勝に花を添えた。東海大四は86年夏から6大会連続で初戦を突破。初の8強入りをかけ、明日28日第3試合で松山東(愛媛)と激突する。

 積極的に仕掛ける豊橋工の攻撃を、涼やかにかわした。ピンチになっても、東海大四のエース大沢の表情は、ぴくりともしなかった。

 三塁側アルプスをオレンジ色に染めた、相手応援団の声すら耳に入らない。右打者のアウトローいっぱいへ伸びる直球を主体に、外へ逃げるチェンジアップや緩いカーブを織り交ぜ、奪った三振は10個を数えた。打っても先制のホームを踏むなどチーム唯一の2安打。「すごく気持ちいい」と大満足の3安打完封劇で、プロ注目右腕、森奎真(けいま=3年)との我慢比べを制した。

 昨夏の甲子園で計測不能の超スローカーブを投げた前エース西嶋亮太(JR北海道)ほどの奇抜さはないが、巧みな緩急は先輩譲りだ。縦横2種類のスライダーを決め球に、2回1死三塁、重盗を決められた3回1死二、三塁のピンチを脱すると「初球の入り方に気をつけた」という4回以降は無安打に抑え、味方が7回に挙げた3点を守った。

 「(相手応援団の)迫力に負けないようにと思って投げた」と、意地で投げた120球だった。人口約3300人の天塩町出身で、札幌から帰省の際には約5時間半もバスに揺られる。高校入学当初は大手コンビニチェーンの豊富な品ぞろえに、ひたすら感動。「地下鉄に乗ると、人酔いしちゃう」という素朴な“カントリー・ボーイ”にとって、甲子園の大歓声は異次元の世界だったに違いない。

 心が乱れそうになるたび、前夜、帽子のつばの裏に書き込んだ「田舎魂」の言葉をそっと見上げて奮い立った。「地元から応援に来た人もたくさんいたので、いいところが見せられて良かった」と、直線距離で約1200キロ以上離れた故郷から駆けつけた家族らに感謝。前日25日に看護師国家試験に合格した姉麻亜矢(まあや)さん(20)へ、最高の合格祝いとなり、喜びもひとしおだ。

 2回戦では、これまた大応援団を擁する松山東が待ち受ける。「相手は今日以上の応援団が来るかもしれないけれど、負けない」。チーム初となる甲子園2勝の壁を、その右腕でぶち破る。【中島宙恵】

 ◆大沢志意也(おおさわ・しいや)1997年(平9)4月17日、天塩町生まれ。天塩小1年で野球を始め、天塩中卒業まで投手兼遊撃手。東海大四では1年秋の地区予選で初ベンチ入りし、昨夏の甲子園も背番号18でメンバー入り。昨秋から背番号1。家族は両親と姉1人。174センチ、69キロ。右投げ左打ち。

 ◆北海道勢の完封 大沢で春夏17人目。春は一昨年の遠軽・前田知輝と北照・大串和弥、昨年の駒大苫小牧・伊藤大海が、いずれも初戦で記録し、3年連続となった。2ケタ奪三振での完封は、52年夏の函館西・太田侃(14K)0-0岐阜工(延長12回日没引き分け)60年春の北海・佐藤進(11K)3-0法政一(東京)10年春の北照・又野知弥(10K)2-0秋田商、以来4人目になる。