逆境を乗り越えたナインが、夢舞台の切符をつかんだ。白樺学園が旭川実に逆転勝ちし、4年ぶり3度目の甲子園出場を決めた。1-3とリードされていた5回表、4番加藤隆舗右翼手(3年)の2ランなどで4点を奪い試合をひっくり返し、終わってみれば2ケタ17安打で13得点。旭川実に“ミラクル”のスキを与えない完勝で、北北海道109校102チームの頂点に輝いた。

 マウンドに立つ白樺学園192センチ右腕が、見えなくなった。ベンチから飛び出したナインが、河村に次々と抱きつき、その体をすっぽり、覆い隠す。苦しんで、耐えてつかんだ甲子園。もう、喜びを抑える必要はない。人さし指を天に突き上げる。「ここまで長くて苦しかった」。4安打で勝利の立役者となった捕手川波は、うれし涙が止まらなかった。

 旭川実の代名詞「ミラクル」を猛打で吹き飛ばした。2点ビハインドの5回。3番池田の適時打で1点を返し、なお1死一塁。4番加藤が初球をたたいた。左翼席に飛び込む逆転2ランで、打線に火が付いた。この回、得意の集中攻撃で一挙4得点。6回以降も得点を重ね、17安打13得点で、旭川実に逆転のスキを与えなかった。

 逆境がナインを強くした。昨夏の北大会で初戦敗退後、戸出直樹監督(39)が辞任した。新チームは不安を抱えてスタート。新たに就任した前監督は、体調不良もあり1月からチームを離れた。現2、3年生部員41人は約2カ月間、監督不在の状態に陥った。「どうなるか不安だった」と河瀬。チームはどん底にあった。

 1度は退いた戸出監督も、悩んでいた。背中を押したのは昨年6月、脳出血で倒れた平井弘幸前校長(68)だった。「君しかいない。もう一花咲かせてくれ」。病床で頼まれた。72年から同校の監督を務め、自身も現役時代に指導を受けた恩師の言葉で、グラウンドに戻る決心をした。

 1度はチームを離れた身、選手はついてきてくれるのか。心配は杞憂(きゆう)だった。現3年生は戸出監督を慕って入部した。川波は「監督の下でやるために白樺にきた。監督を胴上げしよう」と原点に返った。なえかけた闘争心がよみがえる。ここから、甲子園をつかむ快進撃が始まった。戸出監督はいう。「私は何もしていない。生徒たちが本当によく頑張ってくれました」。

 昨年11月には、時間を巻き戻したいような悲劇もあった。当時2年の渡部洸稀さんが、突然の事故で亡くなった。この日の試合前、午後0時2分。約1分間、黙とうした。周東拓弥主将(3年)は「洸稀に『決めたぞ』と報告したい」と、亡き球友への思いを打ち明ける。

 さあ、3度目の甲子園。前回11年は初勝利を挙げ、2回戦も春夏3度優勝の智弁和歌山に延長10回逆転サヨナラ負けと強豪を追い詰めた。もう、気後れすることはない。この日9回を投げきった背番号1は「浮かれずに1つ1つ、やるべきことをやる」と聖地を見据えた。苦しんでつかんだ夢舞台、チーム一丸で大暴れする。【保坂果那】

 ◆白樺学園 1958年(昭33)に帯広商として創立した私立校。65年、現校名に改称。生徒数は468人(女子176人)。野球部は開校と同時に創部。部員数64人。甲子園は夏2度出場。主なOBはスピードスケート五輪メダリストの清水宏保、堀井学。所在地は北海道河西郡芽室町北伏古東7線10の1。嶋野幸也校長。

◆Vへの足跡◆

◇十勝地区大会

2回戦11-1音更

代表決定戦4-0広尾

◇北北海道大会

1回戦3-0深川西

準々決勝9-8稚内大谷

準決勝2-1北見工

決勝13-4旭川実