花巻東(岩手)のプロ注目左腕、高橋樹也(みきや=3年)が、2失点完投で2年ぶり8度目出場のチームを初戦突破に導いた。球速より制球を重視。1死球を与えただけで被安打8、三振は10個奪った。4回に許した2点は3失策が絡み自責点は0。バットでも2回に2点先制打を放ち、専大松戸(千葉)を退けた。花巻東の2回戦は大会第8日の13日、第4試合(相手未定)となった。

 冷静で動揺もしなかった。高橋が初めての甲子園マウンドでポーカーフェースを貫いた。3点リードの4回1死から野手の3失策で1点を許し、タイムリー三塁打を浴びて2点目を失い、なお1死三塁。「2点をかえされたところで表情を変えると、野手に影響が出るので。無表情で投げた」。後続2人を断った。父への、岩手大会で戦った友人への思いが、ピンチでハートを強くした。

 90年夏に済々黌(熊本)との1回戦で5-7と敗れた、花巻東OBの父拓也さん(42)がアルプス席で見守った。小さいころから当時のビデオを見せられた。県大会の試合には何度も連れて行かれた。拓也さんは投手として入学。右肩を故障して外野手に転向した。「その悔しい思いを息子に託しました」と話した。自責0の完封と言っていいほどの投球で、父の無念を晴らした。

 専大松戸の右打者が「けっこう振ってくる」と分析し「球速より制球を意識した」と、勝つ投球に徹した。146キロを誇る速球は最速140キロ止まりだったが、ストライク先行の1死球と狙い通りの内容。右打者にチェンジアップ、左打者にはスライダーが決まり10三振を奪った。佐々木洋監督(40)は「高橋の良さは四死球を出さないところ」と褒めた。

 「絶対勝てよ」。7月24日、岩手大会決勝で破った一関学院の左腕佐藤一郎(3年)から、試合後にグラブを手渡されて激励された。中学時代に岩手県選抜で一緒に投げ合った仲。一塁側ベンチに置いたバッグには、そのグラブが入っていた。2回に2死満塁から先制の2点中前打。「たまたまです」と笑ったが、投打で甲子園に届かなかった友人との約束を果たした。

 09年春、夏の花巻東・菊池雄星(西武)の活躍を見て入学した。2年前の夏4強はスタンドで見届けた。「雄星さんや(大谷)翔平さんには及ばないですけど、エースの投球をしていきたい」。父と友人に届けた甲子園勝利。偉大な先輩も成し遂げられなかった目標の日本一へ、まず1つ階段を上った。【久野朗】

 ◆高橋樹也(たかはし・みきや)1997年(平9)6月21日、岩手県花巻市生まれ。笹間一小3年から笹間一スポーツ少年団で野球を始める。西南中では主に投手。2年の時に岩手県選抜で東北大会準優勝。花巻東では1年秋からベンチ入り。176センチ、74キロ。左投げ左打ち。家族は両親と弟2人。血液型A。