東海大相模(神奈川)は、先発の吉田凌投手(3年)が86球の省エネ投球で小笠原慎之介投手(3年)につなぎ、聖光学院(福島)を下した。

 東海大相模・吉田には、「あの男」の姿が見えていた。「一塁側のブルペンで、黄色いグラブをつけたやつがバンバン投げてましたからね」。完投目前の9回。先頭打者を投ゴロに打ち取り、一塁送球すると、視線の先にいた小笠原がマウンドに向かって走りだした。ライバルの動きで交代を悟る。151キロをたたき出した投球をベンチで見つめ「相変わらずすごいな」と、思わず笑ってしまった。

 夏の甲子園初戦。大事な一戦の先発を任されたのは吉田だった。伝えられたのは、試合直前のウオーミングアップ中。「五分五分で、自分もあるかと思って、気持ちだけはしっかり準備していました」と受け止めた。「後ろに小笠原がいますから。初回から飛ばしました」と集中する。

 直球は最速144キロをマークし、宝刀スライダーをコースに投げ分けた。だが、奪った三振はわずかに2個だった。縦のスライダーを武器に、昨夏の神奈川大会決勝では20三振を奪い一躍注目されたが、投球スタイルを一変。ワンバウンドになるスライダーを減らし、ストライクゾーンで勝負を続けた。9回1死まで86球で投げ切り、「省エネ投球」で勝利をつかんだ。

 「三振だと最低でも3球かかる。1球で打たせれば、球数を減らせますから」。三振より、勝利。連戦が続く夏を見据えた決断が、勝負どころで結果になった。門馬敬治監督(45)は「聖光学院に向かっていくには、吉田の粘りが必要だと思った」と言った。

 吉田にとって、兵庫は生まれ育った地元。一塁側アルプスには家族や親戚が集まった。「ちゃんと野球している姿を見せられたと思います」。派手さはなくても、先発の仕事をきっちり果たし、勝利の立役者になった。【前田祐輔】

 ◆神奈川対福島 神奈川県勢は甲子園で福島県勢に春夏通算7戦全勝となった(春1勝、夏6勝)。最近4度はいずれも対聖光学院で、05年夏に桐光学園が3○2、08年夏に横浜が15○1、12年春に横浜が7○1と勝ったのに次いで同校相手に4連勝。