ナイジェリア人の父を持つドラフト上位候補、関東第一(東東京)オコエ瑠偉外野手(3年)が、劇的な決勝2ランで、チームを初の4強に導いた。3-3で迎えた9回に左中間スタンドに高校通算37号を運び、興南(沖縄)を破った。4打席目までは無安打だったが、苦手だった内角直球をとらえ、歓喜の雄たけびを上げた。19日の準決勝は、優勝候補の東海大相模(神奈川)と対戦する。

 夕暮れの甲子園に、沖縄伝統の指笛と拍手が交錯する。大歓声を背に、1番オコエが打席に向かった。

 3-3で迎えた9回2死二塁。「最後は気持ちで1本出そうと思った。張っていたボールが来ました」。2ボール1ストライクから、内角低めに直球が来た。コンパクトに振り抜くと、打球はライナーで左中間スタンドに飛び込んだ。高々とバットを放り投げ、雄たけびを上げる。

 「うれしすぎて、興奮しすぎて、何が何だか分からない。興奮して、歓声は聞こえませんでした」。普段は、50メートル5秒96の俊足で駆け回るダイヤモンドを、ゆっくりと時間をかけて1周。二塁ベースを回ると、大歓声に沸く三塁側アルプススタンドに右手を突き上げた。初戦は「足」で、前日の3回戦はスーパーキャッチの「守」で沸かせた男が、バットで試合を決めた。

 直前の4打席目までは無安打だった。興南のトルネード左腕比屋根に苦しみ、結果を出せなかった。「もう1回(打席が)回って来る」と信じて待った。狙い球は内角直球。昨秋から徹底的に攻められ、打撃を崩した要因になったコースだった。「来るという確信がありました」。冬場は苦手克服のために徹底的に振り込んだ。打者としての本能で配球を読み切り、特大アーチをたたき込んだ。

 「走」「攻」「守」で規格外のプレーを続ける甲子園。将来の夢はメジャーリーガーと公言する。好きな選手は大リーグが誇るオールラウンドプレーヤー、レッドソックスのハンリー・ラミレス。「ああいう魅力的な選手になりたい」と大きな夢を抱いている。

 宿舎では、ピンポンダッシュを愛するいたずら好きだが、この日の朝は封印。出陣メシの餅入り「力そば」を流し込んで、聖地に乗り込んだ。2回2死一、三塁からは、中堅前のライナーにダイビングキャッチを試みた。惜しくも捕球は逃したが、「捕れないと思ったけど、レフト、ライトがバックアップに来ていたので勝負しました」と冷静な状況判断があった。

 この日は、米沢貴光監督の40歳の誕生日。「監督さんの誕生日にこういう勝ち方ができて良かったです」と笑った。宿舎に用意していたサプライズのケーキより、こんな劇的本塁打が何よりのバースデープレゼントだ。【前田祐輔】