高校野球100年の夏、みちのく勢初優勝へ、仙台育英(宮城)が王手をかけた。ドラフト上位候補の3番平沢大河内野手(3年)が4回に3ランを放つと、エース佐藤世那投手(3年)は6安打3奪三振完封。早実(西東京)を破り、26年ぶりの決勝進出を決めた。

 その時、平沢には「見えていた」。4回2死一、二塁、バットを振らずに3球、あえて見逃した。4球目。早実の2番手左腕上條が放ってきたのは、待っていたスライダー。迷わず振り抜くと打球は低い弾道で右中間スタンドへと伸びていった。4-0からさらにリードを広げる3ラン。「流れ的に大きな3点だった。すごくうれしかった」。ダイヤモンドをまわりながら、何度も手をたたいた。

 守りでも魅せた。3回裏2死満塁のピンチで打者は早実4番加藤。遊撃の位置で二塁走者山田の隙を見抜き、すかさずけん制のサイン。エース佐藤世とともに成功させ、ピンチを防いだ。1本出ていれば早実に流れが傾いていたかもしれない場面。「あのけん制が大きかった」と佐々木順一朗監督(55)も振り返るビッグプレーで球場を沸かせた。

 ここまでの5戦で安打は4本。だが、うち3本が試合を決める強烈な本塁打だ。同じ3番を打つ早実・清宮を「ヒット数は(清宮が)上まわっている。打席の中で雰囲気があって、ヒヤヒヤしながら守ってました」とたたえたが、ここぞの勝負強さは平沢が断然上だった。

 東北100年の夢へ、あと1勝となった。夏の甲子園の前身である全国中等学校優勝野球大会第1回で秋田中が準優勝して以来、東北のチームは計10度決勝に進み、すべて敗れた。その間、沖縄、北海道、北陸に先を越され春夏通じ優勝していない地区は東北だけとなった。生まれも育ちも宮城の平沢は言う。「次の試合で勝って東北地方は強いんだぞ、ということを見せつけたい」。小笠原、吉田の好投手2人を擁する決勝の相手東海大相模にも「打ち負けたくない」。東北代表としての誇りを持って、11度目の挑戦に臨む。

 名前は「大河(たいが)」。アマゾン河に冒険に行くような大きな子になるように、と名付けられた。東北では、まだ誰も知らない境地へ。平沢のフルスイングが、新たな歴史を切り開く。【高場泉穂】

 ◆仙台育英・平沢が今大会3本目の本塁打。夏の甲子園で1大会3本以上の打者は今大会の山本(九州国際大付)に次いで24人目(25度目)だが、左打者、東北のチーム、遊撃手という点でいずれも珍しい。

 24人のうち左打者は08年筒香(横浜)らに次ぐ5人目。大会4本以上を打った清原(PL学園)ら5人はいずれも右打者で、左打者の3本は大会最多タイになる。東北のチームでは11年川上(光星学院=3本)12年北條(同=4本)に次いで3人目。遊撃手は24人の中で北條と2人だけだ。ちなみにプロ野球では2リーグ制後、遊撃手の本塁打王が84年宇野(中日=37本)しかいない。本塁打を打てる遊撃手は貴重だ。【織田健途】

 ◆仙台育英が42勝 仙台育英が甲子園42勝目(春12勝、夏30勝)。東北6県の学校では甲子園最多勝利の東北に並んだ。

 ◆佐々木監督が夏19勝 仙台育英・佐々木順一朗監督は夏の大会で通算19勝目(春夏通算は26勝目)。竹田利秋監督の18勝(東北、仙台育英で各9勝)を上回り、東北6県で夏の最多勝利監督になった。

 ◆神宮大会V校の夏 仙台育英は昨年秋の明治神宮大会で優勝した。神宮V校では98年横浜、11年日大三が夏の甲子園も優勝しているが、3度目となるか。

 ◆宮城県勢の完封 夏の大会は04年に2完封したダルビッシュ有(東北)以来11年ぶりで、準決勝以降では初。佐藤世は今年センバツの神村学園戦でも完封しており、県勢の春夏連続完封は04年ダルビッシュに次いで2人目。