V奪回へ、新戦力が堂々の全道デビューだ。一昨年覇者の駒大苫小牧が、武修館に7回コールド勝ち。背番号15の1年生右腕、工藤稜太投手が6回を散発3安打無失点でエース阿部陽登(2年)へつなぎ、昨夏の甲子園出場校に完勝した。OB、ヤンキース田中将大投手(26)より、一足早く道大会初勝利を挙げた16歳の“奮投”で、チームは出場13大会連続で初戦を突破。北照、札幌日大も準々決勝進出を決め、8強が出そろった。

 冷静沈着。初めての大舞台にも、平常心を失わなかった。駒大苫小牧の工藤は立ち上がりの1回、いきなり2者連続で空振り三振を奪うと、淡々とアウトを重ねた。「チームのために自分の役割を果たそうと思って投げた」。ボール球が先行しても、慌てない。ベンチから飛んだ「リズム先行で」という助言を遂行し、6回を散発3安打で7奪三振。スリークオーターから、時折、真っすぐを動かしながらバットの軸を外す器用さで、二塁を踏ませなかった。

 今秋の室蘭地区予選からベンチ入りを果たし、ヤンキース田中が高校時代に初めてつけた“出世番号”の背番号15を引き継いだ。「気に入っている。重みは感じるけど、プレッシャーは感じない」。高校1年で球速140キロ以上の球を投げた田中のような、本格派ではないものの「落ち着いた性格で、走者を出しても動じない。それが、工藤のいいところ」と佐々木孝介監督(28)。公式戦初登板となった地区予選1回戦・苫小牧西戦で5回参考ながら完全試合でデビューするなど、初舞台にはめっぽう強い。

 甲子園出場の夢をかなえるために、駒大苫小牧への進学を決めた。身長176センチで、入学時に58キロだった体重は62キロに。当初はなかなか箸が進まなかった米1キロの夕食も、今では40分で平らげる。「目標の選手は、やっぱり田中投手。タイプは違うけれど、尊敬する先輩であり、選手なので」。少しでも偉大なOBに近づこうと、鍛錬の日々だ。

 その田中が道大会初勝利をマークしたのは、2年夏。チーム事情で1年秋の道大会では捕手に徹していたからとはいえ、工藤のほうが一足早く全道の舞台で白星を手にしたことになる。チームは、出場13大会連続で初戦を突破。新たな戦力を加えた一昨年の覇者が、V奪回へ勢いよくスタートした。【中島宙恵】