甲子園に実力とルックスを兼ね備えたイケメン左腕が出現した。最速150キロを誇る今秋ドラフト候補、大阪桐蔭・高山優希投手(3年)が、8回2安打8三振を奪い、甲子園初勝利を挙げた。人気俳優、野村周平(22)似の甘いマスクで、マウンド上では帽子を飛ばしながら力投。土佐(高知)に9-0と大勝発進し、4年ぶりの春制覇へと導く。

 満塁のピンチは、人を変える。2回1死満塁。8番・尾崎を2ボール2ストライクと追い込み、捕手・栗林の直球のサインに高山は首を振った。選んだ決め球はスライダーだった。

 「まっすぐは練習されて(打者に)合わされている。それなら変化球で行こうと思った」。相手エースのバットに空を切らせ、続く馬場は133キロ直球で二塁ゴロ。全力疾走の土佐をしのぐ快走で、イケメン左腕はマウンドからベンチに駆けた。3回以降は被安打ゼロの投球だった。

 12年春の藤浪(阪神)がそうだった。準々決勝・浦和学院(埼玉)戦、1-1の7回無死満塁を3者連続三振斬り。春夏連覇、阪神のエースに続く道を歩き始めた。あこがれの藤浪に、高山も続く。

 「本当は分かっていても打たれない真っすぐを投げたいです」と明かした。昨秋明治神宮野球大会で150キロをマーク。その直球はこの日はスカウト計測で143キロどまり。「最速150キロ左腕」の直球を想定し、練習した土佐打線にとらえられた。それならと、変化球で攻めた。“150キロ”を追いかけない。そこが高山の非凡たるところだ。

 城東小1年で野球を始めたころは、試合で負けるたびに泣いた。夕食ものどを通らないくらいに大泣きし、両親を心配させた。そんな少年が大阪桐蔭を進学先に選び「桐蔭でエースを狙う」と約束した。

 昨年センバツは田中誠也(立大)に続く2番手。西谷監督は田中、高山の先発ローテで大会を乗りきるつもりだった。だが高山は3月初旬に左手首を負傷。調整は遅れた。3試合完投の田中は準決勝・敦賀気比(福井)戦の2回途中10失点で力つきた。続いた高山は4回1/3を無失点。高山が開幕から万全なら、昨春王者と渡り合えていた。

 疲労性の左肩痛を抱えながら投げた田中の姿を、高山は忘れない。エースの投球は、チームの運命。だから完封目前の9回交代も「チームが勝つのが一番」と言った。「人生を変える。その気持ちで力を出し切ってほしい」と西谷監督に期待され、高山も「大阪桐蔭の1番を背負う責任がある」と約束し、まずは甲子園1勝。「人生を変える春」が始まった。【堀まどか】

 ★甲子園の主なアイドル      

 ◆太田幸司(三沢)69年夏、松山商との決勝で18回引き分け再試合、2日間で計27回を投げ準V。「コーちゃん」ブーム。

 ◆島本講平(箕島)70年春、4番エースで優勝。太田の翌年登場し「2代目コーちゃん」。

 ◆原辰徳(東海大相模)父貢さんが監督。1年夏から4度出場した「プリンス」。

 ◆定岡正二(鹿児島実)74年夏、原がいた東海大相模を延長15回の死闘で破る。

 ◆坂本佳一(東邦)77年夏、1年生で決勝に進出し、東洋大姫路にサヨナラ弾を浴び準V。「バンビ」のニックネーム。

 ◆荒木大輔(早実)80年夏、1年生で準V。「大ちゃんフィーバー」が社会現象に。5季連続出場。

 ◆斎藤佑樹(早実)「ハンカチ王子」。06年夏、駒大苫小牧と決勝引き分け再試合の末、優勝。